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井蛙内科開業医/診療録(2)

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2008年 06月 04日

大腸疾患(1) 原因不明の男性貧血患者

結腸鏡検査の適用基準を提示
原因不明の男性貧血患者

〔ニューヨーク〕 ミネソタ大学(ミネソタ州ミネアポリス)消化器病学のMandeep S. Sawhney助教授らは,後ろ向き研究から「男性の貧血患者に対する結腸鏡検査の適用には100ng/mLのフェリチン値を目安とすることが妥当」とする結論をAmerican Journal of Gastroenterology(2007; 102: 82-88)に発表した。

異論が多いまま推移 
鉄欠乏性貧血が結腸癌の徴候であることは,以前からよく知られていた。
かなり長い間,原因不明の鉄欠乏性貧血患者は結腸鏡検査を考慮すべきだとするコンセンサスが医師の間に広く存在してきた。
過去のいくつかの前向き研究で,血清フェリチン値が50ng/mL未満の患者は結腸腫瘍である可能性が高いため,直ちに結腸鏡検査を行うべきことが示されている。
 
しかし,フェリチン値が50ng/mLを超える貧血患者が結腸鏡検査を受けるべきか否かについては,異論が多いままであった。
Sawhney助教授らによると,この問題に対するガイドラインは確立されていない。
 
同助教授らは同大学医療センターの過去のデータを用いた。
研究対象は,貧血の評価のために結腸鏡検査を受けた424例と,平均的リスクの結腸癌スクリーニングとして結腸鏡検査を受けた323例の計737例であった。
 
この研究集団を用いて,
(1)フェリチン値50ng/mL以下(254例,男性241例)
(2)フェリチン値51~100ng/mL(55例,男性54例)
(3)フェリチン値が100ng/mLより多い(115例,男性113例)
(4)スクリーニングのために結腸鏡検査を行っている無症候性非貧血患者(323例,男性305例)
―の 4 群で比較した。
4 群の年齢範囲は65.5~72.2歳であった。


結腸腫瘍発生率で 5 倍の差
フェリチン値51~100ng/mL群における進行性結腸腫瘍(neoplasia)の発生率は,同値50ng/mL以下群と同等だった(7.9%対7.2%,P=0.9)。
 
さらに,フェリチン値51~100ng/mL群における進行性結腸腫瘍の発生率は非貧血対照群より有意に高かった(7.2%対1.2%,P=0.0001)。
 
加えて,フェリチン値51~100ng/mL群の進行性結腸腫瘍の発生率は,同値が100ng/mLより多い群より高かった(7.2%対1.7%)。
しかし,この結果は統計学的に有意ではなかった(P=0.8)。
 
フェリチン値が100ng/mLより多い群では,進行性結腸腫瘍の発生率が非貧血対照群と類似していた(1.2%対1.7%,P=0.7)が,同値50ng/mL以下群より有意に低かった(1.7%対7.9%,P=0.02)。
 
Sawhney助教授らは「結腸癌の症例のみを考慮した場合,フェリチン値51~100ng/mL群は,同値が100ng/mLより多い群または非貧血対照群と比べて発癌率が高かったが,その差は統計学的に有意ではなかった」と述べている。
 
進行性結腸腫瘍リスクの年齢調整オッズ比は,フェリチン値50ng/mL以下,51~100ng/mL,100ng/mLより多い各群でそれぞれ6.8,6.2,1.4,非貧血対照群では1.0であった。
したがって,同助教授らは「年齢について調整後,フェリチン値50ng/mL以下と51~100ng/mLの両群は,フェリチン値が100ng/mLより多い群または非貧血対照群と比べて 5 倍も進行性結腸腫瘍になりやすい」と述べている。
 
以前の研究により,二次性疾患を随伴する患者でさえ,フェリチン値が100ng/mLより多いと鉄欠乏になりにくいことが示されている。 


鉄欠乏性貧血でも適用を 
Sawhney助教授らは,ヘモグロビン,平均赤血球(個々の)容積,血清トランスフェリン,鉄飽和度といった他の要因を含めることで,この研究の診断精度をさらに高めるよう試みた。
しかし,このモデルにこれらの要因を連続的に加えても,曲線下面積に大きな変化は認められなかった。
 
同助教授らは,鉄欠乏性貧血の患者における結腸癌発生率に関する文献は,それぞれの研究者が異なる基準を用いている点で問題があることを指摘している。
例えば,鉄欠乏症を男性でフェリチン値20ng/mL未満,女性で10ng/mL未満と定義している研究もあれば,10%未満の鉄飽和度または45μg/mL未満の血清鉄と定義している研究もある。
 
興味深いことに,以前のある研究で,非鉄欠乏性貧血の高齢患者における消化器悪性腫瘍の発症率は1.3%であることが判明している。
この発症率は高齢の非貧血集団における発症率の 5 倍であった〔ワシントン大学医療センター(ワシントン州シアトル)のGeorge N. Ioannou助教授らがAmerican Journal of Medicine(2002; 113: 276-280)に発表した研究を参照〕。
 
Sawhney助教授らは鉄欠乏患者に関して,フェリチン値のカットオフ値を100ng/mL未満にすると,結腸鏡検査を行う患者数が増えるが,癌がないと診断されても全体的には意味があると説明。
「カットオフ値を100ng/mLにすると,結腸病理学における血清フェリチン値の感度が92%に増える。感度を上げると特異度と全体的な精度は低下するが,診断のために結腸鏡検査を受ける患者の数が増えることになる。早期と後期の結腸癌患者ではアウトカムに劇的な違いがあることを考えると,この代償を支払う価値があることが示唆される」と述べている。
http://mtpro.medical-tribune.co.jp/article/view?phrase=%E7%B5%90%E8%85%B8%E9%8F%A1%E6%A4%9C%E6%9F%BB&perpage=0&order=0&page=1&id=M4038461&year=2007&type=allround
出典 Medical Tribune 2007.9.20
版権 メディカル・トリビューン社


<番外編>
昨夜の「報道ステーション」で、予防対策としての「新型インフルエンザワクチン」と発生時の拡大防止の「二酸化塩素ガス」をとりあげていました。
各々について、「UMNファーマ」(秋田市)、大幸薬品の両者が注目を浴びています。


■ ワクチン開発 「カギは蛾の細胞」
新型インフルエンザ発生に備え、ワクチンの備蓄が課題になるなか、製造期間を従来より3分の1の約8週間に短縮できる製造手法が注目されている。
蛾の細胞を使うもので、大量生産にも対応できるためだ。6月から治験が始まる。

蛾の細胞を使う製造法とはいかなるものか。

「インフルエンザのワクチンとなるたんぱくを、大量に培養した蛾の細胞につくらせるという方法です。
現在承認されているワクチンは、製造に大量の鶏卵を使っていますが、蛾の細胞が鶏卵の代わりをするのです」

新型ワクチンの開発に取り組む「UMNファーマ」(秋田市)の林成浩取締役が、そう説明する。
同社は大学などが持つ技術を活用して、新薬などを開発する医療ベンチャーで、秋田県などが関係するファンドの出資を受け、2004年に設立された。

新型インフルエンザは、鳥インフルエンザ「H5N1型」がヒトに感染し、ヒトからヒトにうつる段階で発生するとされている。
ひとたび発生すると、世界的大流行が懸念されており、ワクチン備蓄が各国共通の急務となっている。

UMNファーマの場合、培養タンクであらかじめ増殖させた蛾の細胞に「H5N1型」の遺伝子を導入。
ウイルスの感染にかかわっているたんぱくを細胞に産生させた後、これらを取り出して、純度が高いたんぱくに精製。
さらに、免疫を高める薬剤などを加えて製剤化したものを新型インフルエンザに備えたワクチンとする考えだ()。
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ワクチン開発にあたっては、アメリカのバイオベンチャー・PSC社から技術供与を受けた。

鶏卵を使う従来の方法では、ワクチン製造に約6か月かかるが、蛾の細胞を使う方法では、約8週間ですむ。増産するには、その分の培養タンクを増やせばいいため、比較的すばやく対応できるという。

「新型の開発を先に」
アメリカでは、前出のPSC社が同じ方法で、新型ではなく、例年冬に流行する「季節性」のインフルエンザワクチン開発を行っているが、新型向けのワクチン開発は世界初という。国内では現在、「新型」に対して2社がワクチン製造販売承認を得ているが、細胞培養による新型インフルエンザワクチンは、ほかに例がない。

この新型インフルエンザワクチン開発については、UMNファーマが、審査を行う独立行政法人・医薬品医療機器総合機構に、新型に対するワクチンの計画を進めるように強く勧められた経過があるという。

UMNファーマの金指秀一社長が、こう話す。

「強い勧奨を受けて、期待に応えなければと考え、昨年秋から『新型』に対するワクチン開発に本腰を入れました。その後の行政の取り組みを見ていると、細胞培養という新しい技術によるワクチンの必要性を国も重要視していたのではないかと思っています」

治験では6月から、ワクチンを20~40歳の健康な男性125人に4週の間隔をおいて計2回投与する。
初回の投与から56日目に採血して、感染を防ぐ働きをする免疫の抗体が体内で増えているかどうかを調べる。

「実際のデータを得ないと分からない部分がもちろんありますが、PSC社のデータを参考にすると、既存のワクチンと同じレベルには達するだろうと思っています」(金指社長)

細胞培養によるインフルエンザワクチンは、欧米のメーカーで、イヌやアフリカミドリザルの腎臓細胞やヒトの網膜細胞を使った開発が進められているが、まだ実用化には至っていない。

UMNファーマでは、治験と並行して、製造施設の建設にも着手。国の承認を受けてすぐ、2010年にもワクチンの量産に移れる準備を整えている。

「計画中の製造施設は、年1000万人分のワクチンの製造能力ですが、年1億人分のワクチンを用意できるように、施設の拡大も検討していきたいと思っています」(金指社長)

ワクチン開発が新型インフルエンザの発生に、間に合うように祈るばかりだ。

(読売ウイークリー2008年6月1日号より)
http://www.yomiuri.co.jp/atmoney/yw/yw08060101.htm?from=yoltop


■ 新型インフルエンザ予防策 大幸薬品、主力は除菌剤
新型インフルエンザ流行の懸念が高まるなか、製薬会社が感染対策事業や新薬開発に力を入れている。
日本で感染が拡大すれば、最大64万人の死者が出ると推定されており、予防関連の製品開発にも知恵をしぼっている。

大幸薬品は昨年12月、「パンデミック(感染症の世界的大流行)衛生対策キット」(税込み10万5000円)を売り出した。
除菌剤「クレベリン」のほかマスク、手袋、キャップなどのセットで、医療機関や自治体、企業に備蓄用として販売している。

除菌剤は水道水などの殺菌・消毒に使われる低濃度の二酸化塩素が主成分。有害なウイルスや細菌を除去し、人の皮膚や粘膜にもやさしいのが特徴で、スプレータイプと、空気中にガスとして放出する芳香剤のようなゲル状タイプがある。

今後は、空港や公共施設など大きな空間でも使えるよう、低濃度の二酸化塩素ガスを放出する空調機の製造販売を年内にも始める予定だ。

新型インフルエンザの治療薬としては、スイスのロシュ社の内服薬「タミフル」と英グラクソ・スミスクライン社の吸入薬「リレンザ」がある。日本ではタミフルはロシュの子会社の中外製薬、リレンザはグラクソの日本法人が販売している。

治療薬は海外メーカー製が主流だが、いま世界で注目を集めるのは国内メーカーの新薬。富士フイルムが買収を決めた富山化学工業(東京)が開発を進める、「T-705」だ。 既存薬と全く異なるタイプのため、タミフル、リレンザが効かない場合の治療薬として期待が集まっている。
同社は「来シーズンまで臨床試験を重ね、実用化にこぎつけたい」としている。
http://www.asahi.com/health/news/OSK200802180093.html

(大幸薬品の正露丸については、いろいろ問題があることがいわれています。以前に新聞でこの二酸化塩素ガスの報道を目にした時には、クレオソートを思い出してしまいましたが、ノウハウ?を生かして頑張っているようです)

読んでいただいてありがとうございます。
コメントお待ちしています。

他にもブログがあります。
ふくろう医者の診察室http://blogs.yahoo.co.jp/ewsnoopy
(一般の方または患者さん向き)
葦の髄から循環器の世界をのぞくhttp://blog.m3.com/reed/
(循環器科関係の専門的な内容)


by wellfrog2 | 2008-06-04 00:05 | 消化器科


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