井蛙内科開業医/診療録(2)

wellfrog2.exblog.jp
ブログトップ
2008年 08月 20日

ACCORD試験とADVANCE試験

糖尿病の大規模臨床試験で今年最大のセンセーションを起こした(と思われる)ACCORD試験とADVANCE試験。
何よりすごいのが、この両試験の結果がNEJM誌(2008年6月6日)に同時掲載され、さらにエディトリアルで、結果の差がなぜ生じたのかについて考察されているということです。
さすがNEJM誌といった感じです。
原著で読むのが勿論いいのですが、このエディトリアルの内容が日経メディカル オンラインで紹介されていました。
第68回米国糖尿病学会(ADA)の記事とあわせて勉強しました。

第68回米国糖尿病学会(ADA)
厳格血糖管理の心血管疾患予防効果を検討した2試験で対照的結果

第68回米国糖尿病学会(ADA)が1万3,000人以上の参加者を集めてサンフランシスコで開催された。
今回最も注目されたのは,高リスク2型糖尿病患者に対する厳格な血糖管理が心血管疾患を予防するかどうかを検討した2つの大規模臨床試験。
ACCORD試験では,厳格な血糖管理が全死亡率を増加させたことから,今年2月に血糖管理に関する検討が中止されていたが,その解析結果が示された。
ADVANCE試験では,厳格な血糖管理が大血管障害を予防することを証明する結果は得られなかったが,細小血管障害の腎症を予防することが確認された。


その1  ACCORD試験;全死亡が22%増加
ACCORD試験※は米国およびカナダの77施設が参加した大規模ランダム化比較試験である。
2型糖尿病患者に対する血糖,血圧,脂質の厳格な管理が心血管イベントを予防しうるかどうかを明らかにするため,血糖管理(厳格vs通常)に血圧管理(厳格vs通常)または脂質管理(厳格vs通常)を加えて二重に検討する2×2ファクトリアルデザインで実施されている。試験途中で厳格血糖管理群(以下,厳格群)の死亡率が通常血糖管理群(以下,通常群)のそれよりも有意に高値であることが明らかになったことから,血糖管理に関する検討は当初の予定よりも17か月早く中止され,今回,その解析結果が発表された。


一次エンドポイントは有意差なし
HbA1c中央値8.1%の高リスク2型糖尿病患者1万251例(平均年齢62.2歳)が厳格群(HbA1c目標値6.0%未満)または通常群(同7.0~7.9%)にランダムに割り付けられた。
対象患者の38%は女性で,35%は心血管疾患の既往を有していた。
 
試験開始から1年後のHbA1c中央値は厳格群6.4%,通常群7.5%で,その後もこのレベルは維持された。
 
中止までの平均3.5年間の経過観察中に,一次エンドポイント(非致死性心筋梗塞,非致死性脳卒中,および心血管死亡)は厳格群の352例(6.9%),通常群の371例(7.2%)に発生し,厳格群のほうが少ない傾向にあったが有意差は認められなかった〔ハザード比(HR)0.90,95%信頼区間(CI)0.78~1.04,P=0.16〕。
 
全死亡は厳格群257例(5.0%),通常群203例(4.0%)で,厳格群のほうが有意に多かった(HR 1.22,95%CI 1.01~1.46,P=0.04,図 1)。
f0174087_22563695.jpg

心血管死亡も厳格群のほうが有意に多かった(HR 1.35,95%CI 1.04~1.76,P=0.02)。
非致死性心筋梗塞は厳格群のほうが有意に少なかった(P<0.004)。非致死性脳卒中および致死性・非致死性心不全は有意差が認められなかった。
 
治療を要する重篤な低血糖は,厳格群10.5%,通常群3.5%で,厳格群で有意に高頻度に発生した(P<0.001)。
また,10kgを超える体重増加は,厳格群27.8%,通常群14.1%で厳格群で有意に高頻度に発生した(P<0.001)。
なお,同試験は厳格血糖管理を通常管理に切り替えて続行されており,2009年6月まで経過観察される予定である。


厳格群で全死亡増加の理由は不明
最も注目されるのは厳格群で全死亡がなぜ増加したのかである。
患者背景,低血糖,使用薬剤などについて解析が行われているが,これまでのところ厳格群での全死亡の増加を説明できる因子は見出されていない。
 
患者背景については,年齢,性,人種,教育,喫煙,心血管疾患の既往,心不全の既往,糖尿病の罹病期間,HbA1c,収縮期血圧,BMI,LDLコレステロール,血清クレアチニン,アルブミン尿,および肢切断の経験の各因子で補正した後にも,全死亡リスクは厳格群のほうが高い傾向にあった。
 
低血糖については,厳格群で重篤な低血糖が有意に多く発生し,いずれの治療群でも重篤な低血糖が発生した患者は死亡リスクがより高い傾向にあった。
しかし,重篤な低血糖が発生しなかった患者の死亡率は厳格群が高かったが,発生した患者では通常群が高かった。
 
使用薬剤については,同試験が厳格血糖管理という治療戦略を検討した試験であって,個々の治療薬を検討したものではないとしたうえで解析が試みられた。
患者背景を補正して解析すると,
(1)インクレチン・エンハンサーで全死亡リスクの低下が認められるが,使用頻度が非常に低く,かつ厳格群での使用が多い
(2)混合型インスリンで全死亡リスクの低下が認められるが,通常群での使用が多い
(3)インスリンボーラス投与で全死亡リスクの低下が認められるが,両群の全死亡リスクに有意差は認められない
(4)メタアナリシスで冠動脈リスクを高めることが示されているロシグリタゾンは厳格群の91.2%に使用されたが,両群の全死亡リスクに有意差は認められない
などが明らかになり,いずれの薬剤の関与も否定された。
さらに,患者背景およびランダム化後に使用した血糖降下薬で補正後も,全死亡リスクは厳格群のほうが高い傾向にあった。
 
以上の結果を踏まえて,同試験グループは「3.5年間の厳格血糖管理は通常血糖管理に比べて死亡率を増加させ,また,主要心血管イベントを減少させなかった。
これらの知見は高リスク2型糖尿病に対する厳格血糖管理にはこれまで知られていなかった有害作用があることを示している」と結論した。

※Action to Control Cardiovascular Risk in Diabetes



その2  ADVANCE試験;腎症が21%減少
ADVANCE試験※はアジア,オーストラリア,欧州,北米の20か国,215施設が参加して実施された大規模ランダム化比較試験である。2型糖尿病患者に対する血糖管理および降圧治療が大血管障害および細小血管障害を予防しうるかどうかを明らかにするため,2×2のファクトリアルデザイン(厳格血糖管理vs通常血糖管理;高血圧の有無にかかわらず一律の降圧薬投与vsプラセボ)で実施された。
降圧治療が有用であったことは既に報告されており(Lancet 2007; 370: 829-840),今回は血糖管理についての成績が示された。


大血管障害,全死亡は減少せず
大血管障害または細小血管障害の既往,もしくは血管危険因子を有する高リスク2型糖尿病患者1万1,140例が,厳格血糖管理群(以下,厳格群:5,571例)または通常血糖管理群(以下,通常群:5,569例)にランダムに割り付けられた。
厳格群はスルホニル尿素(SU)薬のグリクラジド徐放剤をベースにヘモグロビン(Hb)A1cレベル6.5%以下を目標として治療され,通常群はグリクラジド徐放剤以外のSU薬をベースにガイドラインに沿って治療された。
 
一次エンドポイントは,おもな大血管障害(心血管死亡,非致死性心筋梗塞,非致死性脳卒中)および細小血管障害(腎症あるいは網膜症の新規発症または悪化)から成る複合エンドポイントとした。
 
その結果,経過観察5年(中央値)後の平均HbA1cは厳格群6.5%,通常群7.3%で,厳格群が有意に低値であった(P<0.001)。
 
一次エンドポイントの発生率は厳格群18.1%,通常群20.0%で,厳格群が有意に低値であった〔ハザード比(HR)0.90,95%信頼区間(CI)0.82~0.98,P=0.01,図 2〕。
f0174087_22575385.jpg

その内訳を見ると,細小血管障害は厳格群のほうが有意に低値であった(厳格群9.4%,通常群10.9%,P=0.01)が,大血管障害および全死亡については有意差が認められなかった。
さらに,細小血管障害のうち腎症は厳格群のほうが有意に低値であった(厳格群4.1%,通常群5.2%,P=0.0006)が,網膜症については有意差が認められなかった。
 
そのほか,重篤な低血糖は厳格群で有意に高い頻度で発現した(厳格群2.7%,通常群1.5%,P<0.001)が,その頻度は厳格群でも100例当たり年間0.7回と低かった。また,経過観察中の平均体重は厳格群のほうが通常群よりも0.7kg有意に高値であった(P<0.001)が,厳格群でも体重増加は認められなかった。
 
以上の結果を踏まえて,同試験グループは「グリクラジド徐放剤をベースとしたHbA1c6.5%以下を目標 とする厳格な血糖管理は,おもな大血管障害および細小血管障害から成る複合エンドポイントを10%減少させ,この減少には腎症を21%減少させたことが寄与した」と結論した。
 
同試験の共同責任者の1人,George Institute for International HealthのAnushka Patel氏は「厳格な血糖管理が腎症の予防に重要であることが確認された。
大血管障害については有意な予防効果が認められなかったが,このことは大血管障害を予防するためには血圧や脂質を含む危険因子に対する多面的アプローチの重要性を示唆する」とコメントした。

※Action in Diabetes and Vascular Disease: Preterax and Diamicron Modified Release Controlled Evaluation

出典 Medical Tribune 2008.8.7
版権 メディカル・トリビューン社


<参考サイト>
日経メディカル オンライン 
http://medical.nikkeibp.co.jp/inc/mem/pub/hotnews/nejm/200806/506750.html(NEJM誌から)
ACCORD試験とADVANCE試験、結果の差は何に由来するのか
大きく異なっていた血糖降下薬レジメンと血糖降下パターン
心血管リスクの高い2型糖尿病患者の血糖管理をどう行うべきか―。
2型糖尿病患者の血圧と血糖値の厳格な管理が血管合併症に及ぼす影響を評価するために実施されたACCORD試験とADVANCE試験は、異なる結果となった。
今回、両試験の結果を報告した論文を2008年6月6日に同時掲載したNEJM誌は、エディトリアルで、結果の差がなぜ生じたのかについて考察している。

両試験が対象としていたのは、いずれも心血管リスクの高い患者で、患者特性は似通っていた。
目標としたHbA1c値には差があったが、達成されたレベルは同等で、ADVANCE試験が6.5%、ACCORD試験が6.4%だった。

ベースラインのHbA1c値の平均には差があり、ACCORD試験の方が高かった(8.1%と7.5%)。
この点についてADVANCE試験の著者らは、サブグループ解析でHbA1c値8.1%程度の患者群を対象に死亡率について評価したが、リスク上昇は見られなかった、と述べている。

大きく異なっていたのは、血糖降下薬レジメンだ。
ACCORD試験は、使用する薬剤に制限を設けず、用量や組み合わせの選択も担当医に任せていた。
一方のADVANCE試験では、主にスルホニルウレア系薬剤のグリクラジドが用いられ、すべての患者に投与されていた。

ACCORD試験で実際に投与された薬剤のうち、ロシグリタゾンが厳格管理群の90%、標準管理群の58%に適用されていた。
AVANCE試験ではそれぞれ17%と11%だった。
ロシグリタゾンについては、メタ分析で心血管リスク上昇が示されている。
ただし、ACCORD試験では、厳格管理群、標準管理群のいずれもロシグリタゾン使用による有意なリスク上昇は見られなかったと報告されている。

インスリンの使用もACCORD試験で多かった。
スルホニルウレアとインスリンの組み合わせも少なからず用いられていたようだが、これらの併用は低血糖リスクを高める。
低血糖と心血管リスクの関係は明確ではないが、関連を否定することもできない。

血糖降下のペース、体重増加に両試験で明らかな差
2番目に、厳格管理群の血糖降下のペースには、両試験で明らかな差があった。
HbA1c低下が速やかだったのはACCORD試験で、割り付けから4カ月で絶対減少が1.4%と大きかった。
一方、ADVANCE試験では、6カ月時の減少が0.5%、割り付けから12カ月までで0.6%減少と、血糖降下は緩やかだった。

3番目に、厳格管理群の体重増加に顕著な差があった。
ベースラインからの増加はACCORD試験が3.5kg、ADVANCEでは0kgで、ACCORD試験では10kg 超の体重増加が27%に見られた。一方、ADVANCE試験の厳格管理群の平均体重は、標準管理群に比べ0.7kg多かっただけだった。

今後、2次解析を行えば、薬剤の組み合わせ、血糖降下パターン、併存する危険因子などに基づいて、死亡リスクを予測できるかどうかが明らかになる可能性がある。

これらの試験結果は、現行のガイドラインが不適切であることを示したのではない。
心血管リスクが高い患者のHbA1cの目標値をいくつにすべきかについては、患者のリスクと利益を勘案する必要があるが、今回対象となったような患者群では7.0%が無難かもしれない。

一方、心血管リスクが低い患者の目標値をどう設定するかに関するデータは得られておらず、今後の研究が待たれる。

なお、両試験ともに、ほぼ正常域のHbA1c値を達成しても、3~5年程度の追跡では複合心血管イベントは減らないことを示した。
これは、血糖値以外の危険因子(高血圧、高脂血症、凝固亢進など)の関与を明らかにする必要性を明確にしたといえる。


<ACCORD試験 関連サイト>
J-DOIT3の継続決まる
http://wellfrog.exblog.jp/8272533
ACCORD試験~血糖値は下げすぎないほうが良い?
http://medicineblog.blog32.fc2.com/blog-entry-12.html
米国ACCORD試験、一部中止の波紋
厳格な血糖コントロールは本当によくないのか?
http://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/mem/pub/report/200802/505553.html
米国ACCORD試験、一部中止の波紋
http://marinn.cocolog-nifty.com/mmm/2008/02/accord_6347.html
ACCORD試験の教訓(血糖値と大血管障害)
http://blog.livedoor.jp/my_voyage/archives/51025689.html

<ADVANCE試験 関連サイト>
ADVANCE試験
http://blog.m3.com/reed/20071017/ADVANCE_
ADVANCE試験・血糖管理アームの成績
http://wellfrog2.exblog.jp/8342365
ADVANCE試験 その1(1/2)
http://blog.m3.com/reed/20080521/ADVANCE___
ADVANCE試験~血糖値を大きく下げても大丈夫
http://medicineblog.blog32.fc2.com/blog-entry-13.html
(ACCORD試験とADVANCE試験が表で比較されています)
ACCORD試験とADVANCE試験の教訓
http://medicineblog.asablo.jp/blog/2008/06/08/3568043
糖尿病強化療法をめぐり2つの臨床試験で異なる結論
http://www.dm-net.co.jp/healthdayjapan/2008/02/06.html

<きょうのお気に入りブログ>
治療法研究より老化防止で医療費削減を
http://blogs.yahoo.co.jp/spitzibara/41337599.html

他にもブログがあります。
ふくろう医者の診察室 http://blogs.yahoo.co.jp/ewsnoopy
(一般の方または患者さん向き)
井蛙内科開業医/診療録http://wellfrog.exblog.jp/
(内科開業医関係の専門的な内容)
葦の髄から循環器の世界をのぞく http://blog.m3.com/reed/
(循環器科関係の専門的な内容)
[PR]

by wellfrog2 | 2008-08-20 00:43 | 糖尿病


<< 大腸内視鏡検査のフォローアップ      関節リウマチ疾患関連因子と心血... >>