井蛙内科開業医/診療録(2)

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2008年 09月 12日

インスリン非依存性のGAD抗体陽性糖尿病患者

インスリン依存状態にないGAD抗体陽性糖尿病患者をどう扱うか
北里研究所病院糖尿病センター 山田 悟

背景:適切な治療法についての結論が出ていなかった
多くの臨床家にとって,1型糖尿病(β細胞の破壊による糖尿病)はインスリン依存糖尿病とほぼ同義語であろう。
インスリン依存状態の患者に対してインスリン頻回注射(あるいは強化)療法が適切であることには誰にとっても明らかである。
しかし,時にインスリン非依存状態でありながら膵β細胞に対する自己免疫反応(GAD抗体が陽性など)のサインが見出される糖尿病患者(ここでは緩徐進行1型糖尿病=SPIDDMと呼ぶこととする)がおり,こうした患者に対する適切な治療法については,はっきりとした結論が出ていなかった。

SPIDDM患者に対する早期からの少量インスリン投与が,インスリン分泌能の維持に有効であることがTokyo studyにより判明したので紹介したい(JCEM 2008; 93: 2115-2121)。

4,089人のインスリン非依存糖尿病患者から抽出された60人のGAD抗体陽性患者が対象
Tokyo studyは,東京近郊の7つの病院で実施された非盲検多施設共同前向きランダム化研究であり,GAD抗体陽性のインスリン非依存糖尿病患者を
(1)少量(中間型)NPHインスリン投与群,
(2)スルホニル尿素(SU)薬投与群
の2群に分けてインスリン依存状態に至る比率を比較したものである。

この研究では,SU薬で加療中の4,089人の糖尿病患者をスクリーニングの対象としてGAD抗体を検討し,陽性者(N=212人)のうち,インスリン使用経験者や肝・腎疾患罹患患者などを除いた上で,同意の得られた60人を試験に組み込んだ。
また,“インスリン依存状態”を,年1回の経口ブドウ糖負荷試験(OGTT)における0,30,60,90,120分での血中Cペプチド濃度の和(ΣCペプチド)が4ng/mL未満になることと定義し,インスリン依存状態の判定に主観的要素が入り込まないよう配慮していた。

少量のインスリン投与がインスリン依存への移行を予防
平均で57か月の観察期間のなかで,インスリン群30人中3人(10%),SU薬群30人中13人(43%)がインスリン依存状態となっていた(log-rank testでP=0.003と有意差あり)。
また,インスリン依存状態に至るかどうかに関連する要素を多変量解析で検討したところ,治療法(インスリン群かSU薬群か),試験登録時のΣCペプチド(残存インスリン分泌能力),GAD抗体価(膵β細胞に対する自己免疫性)の3者が選択された。

インスリン分泌能が残存し,GAD抗体価が高い人にはインスリン投与が重要
そこで,試験登録時のΣCペプチド(残存β細胞量)とGAD抗体価(β細胞特異的自己免疫性)で層別化したところ,残存β細胞量が当初から低い人は治療法によらずインスリン依存状態に至っていた(8人中7人;インスリン群で4人中3人,SU薬群で4人中4人)。

一方,残存β細胞量が多い人では,β細胞特異的自己免疫性が小さい人では治療法によらずインスリン依存状態になりにくかったが(26人中1人;インスリン群では12人中0人,SU薬群では14人中1人),β細胞特異的自己免疫性が大きい人(ΣCペプチド10ng/mL以上かつGAD抗体価10U/mL以上)では,治療法によってインスリン依存に至る率が大きく異なっており,インスリン群では14人中だれもインスリン依存にならなかったのに対し,SU薬群では12人中8人がインスリン依存になっていたのである()。

解説:Tokyo studyの意義
Tokyo studyの重要性は2つある。
1つは,しばしば遭遇する一見2型糖尿病患者(要はインスリン非依存状態の患者)なのにGAD抗体が陽性の患者(広義でのSPIDDM)に対する治療法を明らかにしたことである。
すなわち,GAD抗体が陽性であっても抗体価が10U/mL未満であれば,すくなくとも5年のうちにインスリン依存に至る率は低く,必ずしもあわててインスリン療法を導入する必要はないのかもしれない。
(ΣCペプチドなどで測定される)β細胞量の減少を確認した上で患者をゆっくりとインスリン療法に導けばよいであろう。

これに対してGAD抗体価が10U/mL以上の患者では,(少なくともSU薬で漫然と治療している限りは)将来的にインスリン依存になる可能性がきわめて高く,(狭義のSPIDDMとでも呼ぶべき集団であり),少量でもよいのでインスリンを導入して,将来のインスリン依存状態への移行を予防すべきである。
インスリン分泌能力の維持は,その後の血糖コントロールの安定性や合併症の予防にきわめて重要である。

2つ目には,1型糖尿病の自然経過を変更しうることをヒトにおいてはじめて証明したことである。
これまでモデルマウスを対象にした1型糖尿病発症予防や寛解導入についてはいくつもの報告がある。
しかし,ヒト1型糖尿病に対して行われたインスリン(N Engl J Med 2002; 346: 1685-1691),ニコチナミド(Lancet 2004; 363: 925-931)などの投与による介入試験では,いずれも臨床的に有意な発症予防・寛解導入効果を証明できていなかった。
Tokyo studyは,ヒト1型糖尿病が決して不治の病ではないことを世界ではじめて証明したのである。

最近のNature Clinical Practiceに1型糖尿病の予防のレビューが掲載された(Nat Clin Pract Endocrinol Metab. 2008; 4: 334-343)。この論文の副題にあるように,まさに1型糖尿病発症予防・寛解導入の時代がやってきた(time has come)ことをTokyo studyは物語っているのである。

http://mtpro.medical-tribune.co.jp/mtpronews/doctoreye/dr080702.html
MT pro  2008年7.11掲載


昨日のMR面会内容(2008.9.11)
■アボットジャパン
○クラリシッド、ポリフル、ガナトンのパンフ
○非結核性抗酸菌症の肺マイコバクテリウム・アビウムコンプレックス(MAC)症及びエイズに伴う播種性MAC症を含めた「非結核性抗酸菌症」の効能・効果、用法・用量を平成20年8月29日に取得。成人には1日800mgを2回経口投与。
肺MAC症;排菌陰性を確認した後、1年以上の投与継続と定期的な検査を行うことが望ましい。また、再発する可能性があるので治療終了後においても定期的な検査が必要である。
■武田
「ARBおよびACE阻害薬の妊婦への投与禁忌」に関するパンフ
該当薬剤;ブロプレス、アデカット
文献紹介
2型糖尿病患者の冠動脈硬化進展におけるピオグリタゾンとグリメピリドの比較
〜PERISCOPE無作為化比較試験〜
JAMA 2008.4.2 Vol299,No.13 p1561~1572
Effect of eradication of Helicobacter pylori on incidence of metachronous gastric carcinoma after endoscopic resection of early gastric cancer:an open-label,randomised controlled trial
www.thelancet.com vol372 Augusut2,2008
■サノフィ・アベンティス
ランタス注ソロスター、アマリールの紹介
パンフ  Medical Tribune 2008.5.22 特別企画より転載
経口血糖降下薬とインスリングラルギンで治療目標値を達成できるのか
■大正富山
ジェニナック錠 紹介
ゾシン静注用 紹介(開業医にはあまり紹介したくない様子。話題提供。)
クラリス錠の剤型変更 錠剤表面に「クラリス」の刻印。
(後で他のMRに話したら長い薬品名ではできない。クラリスだから出来たと笑われた。
確かに。)
■シェリングプラウ
ナゾネックス点鼻液紹介
(謎ネックス、揉めたゾン・・・ちょっと面白い)
■シオノギ
イルベタン紹介
文献(日本語訳)
○RENOPROTECTIVE EFFECT OF THE ANGIOTENSIN-RECEPTOR ANTAGONIST IRBESARTAN IN PATIENTS WITH NEPHROPATHY DUE TO TYPE 2 DIABETES
2型糖尿病におけるアンジオテンシン受容体拮抗薬イルベサルタンの腎臓保護作用
NEJM 2001;345:851-860
(驚くべきほど古い文献)
○IRBESARTAN TREATMENT REDUCES BIOMARKERS OF INFLAMMATORY ACTIVITY IN PATIENTS WITH TYPE 2 DIABETES AND MICROALBUMINURIA
AN IRMA 2 SUBSTUDY
DIABETES VOL.55,DECEMBER 2006
■エーザイ
ワーファリンの錠剤サイズ・包装変更(アルミの内袋削除)
1mg錠の保証期間が3.5年から3.0年に変更。
(要するに包装の簡素化に伴い保証期間が短縮。ユーザーフレンドリーではない。この会社は、多くのユーザーの要望があるのにも関わらずあの高価なアリセプト錠をウイークリー錠しか出していない。)
■協和発酵
■ファイザー
セレコックス 紹介
■第一三共

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ふくろう医者の診察室 http://blogs.yahoo.co.jp/ewsnoopy
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by wellfrog2 | 2008-09-12 00:09 | 糖尿病


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