井蛙内科開業医/診療録(2)

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2008年 09月 17日

急性膵炎の発生メカニズム

急性膵炎をみる機会はそんなに多いものではありません。
最近の生化学検査セットの項目にアミラーゼが入っていない場合もあり、そういった場合には腹痛があっても急性膵炎が見落とされてしまうこともありそうです。
当院の立地条件として大酒家はあまりいません。
ほとんどいないといってもいいかも知れません。
急性膵炎のところを勉強しても、多くはアルコールが原因と書かれています。
しかし、経験するのは特発性膵炎と思われるような女性例が大半です。
そういった症例は胆道系の小結石のファーター乳頭への落石による随伴性膵炎かとも思われるのですが、結局判然としません。

最近では70代の男性で2回急性膵炎を起こして入院。
非典型的な症状で膵炎自体の診断も難渋した症例ですが、2回目の退院後、他の病院で内視鏡超音波検査で膵がんと診断していただき手術となりました。
高齢者での膵炎は膵がんを疑う必要があることを痛感しましたが、早期の診断はなかなか難しいようです。
このような場合も随伴性膵炎という範疇に分類されるのでしょうが。

さて、きょうは急性膵炎のメカニズムについて勉強しました。


急性膵炎 細胞内保護機序の破綻で発症
典型的症状は持続する腹痛

〔ニューヨーク〕ジュネーブ大学病院(スイス・ジュネーブ)消化器病学のJean-Louis Frossard博士らは「急性膵炎を発症するのは,トリプシノーゲンの活性化を防止するか,トリプシン活性を低下させる細胞内の保護機序が破綻している場合である」とLancet(2008; 371: 143-152) に発表した。
急性膵炎患者の80%は膵損傷が軽度で,合併症を発症せずに回復するが,残りの患者は局所または全身に合併症を発症して重度に陥るとしている。

アミラーゼ値で診断
Frossard博士らは「急性膵炎患者に対して早急に積極的な治療を実施するためには,重度であることを早期に判断する必要があるが,軽度の発作の場合には重度でないことが期待できる」と述べている。
 
膵炎に最もよく見られる症状は,急性で持続性の腹痛である。
このような疼痛が心窩部または右上腹部に見られるのが典型的である。疼痛は数日間持続して背部にまで広がり,悪心と嘔吐を生じることがある。
 
同博士らは「トリプシノーゲンの活性化防止およびトリプシン活性抑制機序の破綻に加え,内皮細胞の活性化により白血球が内皮細胞を通過し,ほかの有害酵素が放出される。
また,膵への酸素供給の減少と酸素由来のフリーラジカルの産生が,損傷に寄与する」と述べている。
 
身体知見は,重症度により変わってくる。軽度では,腹部触診により上腹部の圧痛が認められる。
同博士らは「臍周囲部(カレン徴候)と側腹部には膵壊死部からの滲出液が肝鎌状間膜に沿って後腹膜に至るのが見られる。
膵周囲部から横隔膜へ炎症が広がると,呼吸が浅くなることがある」と説明している。
 
血清中のアミラーゼ値とリパーゼ値により,診断が確定される。
アミラーゼ値が正常値上限の3倍以上であると,急性膵炎であることが多い。
 
症状の発現から数時間以内にアミラーゼ値が上昇し,3~5日後に正常値に戻るのが典型的である。しかし,患者の5例中ほぼ1例は,診断時には正常値内である。
 
アミラーゼ値の上昇が必ずしも急性膵炎を反映しているわけではなく,このような増大は,例えばマクロアミラーゼ血症(アミラーゼと異常な免疫グロブリンの巨大分子複合体形成を特徴とする症候群),糸球体濾過量低下の存在,唾液腺の疾患,炎症(急性虫垂炎,胆嚢炎,腸閉塞または腸虚血,消化性潰瘍,婦人科系疾患など)に起因する膵外の腹部疾患の特徴でもある。

重度の場合は多臓器不全が持続
Frossard博士らは「このため,血清アミラーゼ値が高く,臨床所見が急性膵炎と一致しない場合,高アミラーゼ血症という膵以外の原因を検討する必要がある。
CTスキャンを実施し,アミラーゼを繰り返し測定して追跡することが役立つ」と提案している。
 
リパーゼはさらに長期間高値を維持するため,症状発現が遅い患者に対して特に都合がよい。
 
アミラーゼ値とリパーゼ値に加えて,重度膵炎では腹部X線撮影で限局性のイレウスが認められることがある。
胸部X線撮影からは,急性膵炎患者の約3分の1に横隔膜片側の挙上と胸水などの異常が見られる。腹部超音波の実施時に,腸管ガスがあると膵内の限局性低エコー域が隠され,誤診の原因となる。
 
重度の場合,循環血液量減少症のほか多臓器不全が早期に発症し,持続するのが特徴である。
このため,体液量の早期減少,循環血液量減少性ショック,臓器不全が示唆される症状を評価する精密検査がきわめて重要である。
連続臓器不全評価(SOFA)スコアが臓器損傷の評価に使用されることがある。
 
血管内容積の減少には腹水,イレウス,毛細血管透過性の増大が寄与していると考えられる。
腎機能障害と肺合併症を発症する恐れがある。
このような肺合併症は入院から5日後までに現れる可能性が高く,最初にX線で確認することができなかった異常が出現していることがある。

高い感染膵壊死の死亡率
入院後,診断を確定するために感度87~90%,特異度90~92%の造影CTが用いられることがある。
造影CTにより体液貯留と壊死などの局所的な合併症を評価できる。また,疾患の程度を評価するために4日後に再度実施する。
 
急性膵炎のCT重症度指数を算出するために,2種類のスコアを合わせて用いる。
1つは急性膵炎の重症度を5段階(0~4)に分類する単純CTスキャンによるスコアで,もう1つは膵壊死の程度を測定する造影CTを用いたスコアである。CTスキャンよりMRIのほうが,壊死と体液貯留の特定に優れている。
 
発症2~3週間後には患者の40?70%で膵壊死部の感染が認められ,これが合併症と死亡の主因となる。
 
Frossard博士らは「膵感染と関連することが多いため,膵壊死は最も重度の局所合併症である。
壊死した実質のびまん性領域と局所領域は,最初は無菌であるが,腸由来の細菌に感染することがある」と述べている。
無菌壊死の死亡率は10%であるが,感染壊死の死亡率は25%である。
 
重度疾患を予測する方法には,このほかRanson基準,急性生理学異常・慢性度評価システム(APACHE II),SOFAスコアをはじめとする採点システムが考えられる。
同博士らは「重度疾患の予測能力に関して,これらのスコアには大きな差がある」と警告。
また,これらのスコアに修正を加えることにより予後の予測ができるようになるため,入院中に繰り返し採点することを推奨している。
 
有用な方法にはこれ以外に,C反応性蛋白(CRP),サイトカイン,ホスホリパーゼA2,抗プロテアーゼ,プロカルシトニンのほか,血清トリプシノーゲン(膵液中にあるトリプシンの酵素前駆体)活性化ペプチド(TAP)と血清陰イオントリプシノーゲン2がある。
 
しかし,同博士らは「臨床現場では通常,CRP以外のマーカーが利用されることはない」と述べている。

原因は胆石とアルコール
入院から14日以内に患者の約2%が死亡し,入院から92日以内に計4%が死亡したとする報告がある。
後期死亡は,感染性膵壊死に続発する多臓器不全に起因する傾向がある。
 
先進国における急性膵炎の原因は,胆石の遊走(38%)またはアルコール乱用(36%)であることが多い。これ以外の原因は少ないもののさまざまで,議論の的となることが多い。
 
成人男性より成人女性のほうが,胆石の遊走が原因で急性膵炎になる可能性が高く,アルコール乱用が原因である可能性は低い。
Frossard博士らは「しかし,原因は危険因子(アルコール乱用など)に左右されるもので,危険因子には各国間で差があるだけでなく,それぞれの国でも時代による差があると思われる」と述べている。
 
小児では急性膵炎の主要な誘発因子は外傷,全身性疾患,感染および薬剤で,遺伝的な原因はまれである。
成人,小児とも薬剤により急性膵炎が誘発されることはまれであるが,このまれな事象に80種類以上もの薬剤が関与している。

15~25%は原因不明のまま
Frossard博士らは「原因のほとんどは既往歴,家族歴,臨床症状,臨床検査,腹部超音波および超音波内視鏡検査により判明する。
膵管非癒合が膵炎に関係があるかどうかは,いまだ見解が大きく分かれている」と述べている。
 
しかし,急性膵炎の発症例の15?25%が原因不明のままで,急性膵炎を1度でも経験したことのある患者に関して,まれな原因を探ることがどの程度必要なのかは,いまだ見解が一致していない。
新しい画像診断法と遺伝学的検査を用いて,特発性膵炎と診断される患者の数を減らす必要がある。
 
黄疸または胆管炎が見られる場合,急性膵炎が胆道由来であることがほぼ確定する。
診断を明確に下せない場合,超音波内視鏡検査(EUS)と磁気共鳴膵胆管造影法(MrCP)が胆石の確認に役立つと思われる。
特にEUSは,経皮的超音波検査では検知することができない小さな胆石を確認することができる。
内視鏡的逆行性膵胆管造影法(eRCP)または括約筋切開術により,胆石が遊走することがある。
 
軽度患者の治療は補助的なものとなる。
急性膵炎の重症例では,消化器専門医,介入的放射線科医,集中治療医および外科医を含む集学的チームが管理する必要がある。
 
同博士らは,治療に関しても考察しおり,特に重度膵炎の治療には施設間で大きな差があると指摘している。

悪化したら感染性かどうかを鑑別
抗菌薬の予防的投与の有益性に関しては,いまだ見解が大きく分かれている。
細菌学的な膵の穿刺吸引生検で感染が疑われる場合,14日間の抗菌薬投与(イミペネムまたはメロペネムの静脈内投与)を開始する。
感染がないことが確認されたら,速やかに治療を中止する。
 
Frossard博士らは「膵壊死を来している患者には,壊死組織切除と体液貯留,仮性嚢胞と膿瘍の経皮的または内視鏡的ドレナージが必要と思われる。
しかし,この方法は感染リスクを増大させるため,膵組織または膵周辺組織が感染している場合に限る。膵壊死が無菌の場合には保存的方法を用いる。
しかし,後期合併症または持続性重度膵炎により外科的治療が必要となることがある」と述べている。
 
症状が悪化している場合は,膵組織の超音波誘導下穿刺吸引生検またはCT誘導下穿刺吸引生検を繰り返し実施して,無菌性の膵壊死と感染性の膵壊死を識別する。
 
感染または膿瘍の存在が明らかになった場合には,抗菌薬療法に感染組織の除去を追加する。
これには最終的な腹部閉鎖の前に一連の開腹術が必要となるか,単回の術後に閉鎖式ドレナージが必要となることがある。
最小侵襲手技が開発されているところである。
 
同博士らは「偽嚢胞とは,膵液が膵管の漏出に起因する肉芽組織の壁に包まれて貯留したものである。
膵膿瘍は,膵壊死の限られた領域の周囲に出現する限局性の膿汁貯留からなるものである」と述べている。

出典 Medical Tribune2008.4.17
版権 メディカル・トリビューン社


<関連サイト>
急性膵炎 治療法ガイドライン
http://www.ebm.jp/disease/digestive/01kyu_suien/guide.html
急性膵炎の診療
http://www.osaka-med.ac.jp/deps/emm/pancreatitisguide.htm
膵臓の疾患
http://www.jscp.org/booklet/gl05_06/185.pdf

<番外編>
地球温暖化で腎結石症が増加
〔米オハイオ州クリーブランド〕テキサス大学サウスウェスタン医療センター(テキサス州ダラス)泌尿器科のMargaret Pearle教授とYair Lotan博士らは,地球温暖化の影響で腎結石症患者が増加することが予想されるとProceedings of the National Academy of Sciences, USA(PNAS,2008; 105: 9841-9846)に発表した。

米で10億ドルの医療費増に
Pearle教授らによると,米国では,南部を横断する「腎結石ベルト」が広がることが予想される。
2050年には他州でも温暖化により腎結石症患者が160万〜220万人増加し,州によっては増加率が30%に達するものと予想されている。
患者が200万人増加すれば,直接および間接治療費は約10億ドル増加すると推算されている。
 
同教授は「この研究は,地球温暖化が人々の医学的結果に及ぼす直接的な影響に関する先駆的な事例研究の1つだ。気温の地域間格差により腎結石症発症リスクにも差が生じており,中東での米軍配備に見られるように,温暖地域から亜熱帯地域に移った人で腎結石症リスクの急増が確認されている」と述べている。
 
同教授らは,気温の上昇とリスクの増大が連動する場合,腎結石症が最も増加する地域として米国沿岸の都市部を挙げ,一定の気温以上でリスクが急増する地域はケンタッキー州からカリフォルニア州北部までの一帯であろうと予想している。
 
同大学地球科学科のTom Brikowski准教授は,気候変動に関する政府間パネルの2007年第4次報告から得られた地球温暖化モデルを用い,将来の温室効果ガスの排出傾向から気温の上昇を予測した。
 
Pearle教授らは,この研究は米国での腎結石症のみを取り上げているが,地球レベルでも温暖化により腎結石地帯における腎結石症の増加が予想されると警告している。

出典 Medical Tribune2008.9.11
版権 メディカル・トリビューン社


<2008.9.16追加>
頭痛ダイアリーは貴重な情報源
http://wellfrog2.exblog.jp/8917390

<自遊時間>
先生方、昨夜のテレビ番組
NHK プロフェッショナル 「はみ出しものが、道を開く  大腸内視鏡医 工藤進英」
http://www.nhk.or.jp/professional/backnumber/080916/index.html
は見られましたか?

工藤先生については2007.10.30のこのブログでとりあげさせていただきました。
工藤分類
http://wellfrog.exblog.jp/7289240

読んでいただいてありがとうございます。
コメントお待ちしています。
他にもブログがあります。
ふくろう医者の診察室http://blogs.yahoo.co.jp/ewsnoopy
(一般の方または患者さん向き)
葦の髄から循環器の世界をのぞくhttp://blog.m3.com/reed/
(循環器科関係の専門的な内容)
井蛙内科開業医/診療録http://wellfrog.exblog.jp/
(内科関係の専門的な内容)
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by wellfrog2 | 2008-09-17 00:06 | 消化器科


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