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2008年 09月 30日

CKDの脂質管理としてのスタチン その1(1/2)

慢性腎臓病の脂質管理におけるスタチンの役割 (前編)
慢性腎臓病(CKD)は,米国腎臓財団(NKF)より提唱された疾患概念で,「尿蛋白陽性などの腎疾患の存在を示す所見」あるいは「腎機能低下[糸球体濾過量(eGFR)が60mL/min/1.73m2㎡未満]が3か月以上持続する状態」と定義されている。
CKDは末期腎不全(ESRD)発症の危険因子であるばかりでなく,心血管疾患発症の重要な危険因子であることからも,世界規模で対策が進められている。
 
アトルバスタチンをはじめとするHMG-CoA還元酵素阻害薬(スタチン)は,近年の大規模臨床試験においてLDLコレステロール(LDL-C)を低下させることに加え,eGFRを上昇させることが明らかにされつつある。 

福岡大学腎臓・膠原病内科主任教授
斉藤 喬雄 氏
Professor, Chief, Division of Nephrology/Hypertension, Keck School of Medicine,University of Southern California
Vito Campese氏
 
CKDは心血管イベントの独立した危険因子
斉藤 
CKDの発症頻度は,近年日本においても増加しています。
久山町研究では,1974年から2002年にかけて男女ともにCKDの発症頻度が有意に増加していることが示されました(図1)。
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その要因として,食生活をはじめとする生活習慣の欧米化により,肥満,高コレステロール血症,耐糖能異常などの代謝性疾患が大幅に増加したことが挙げられています。
 
また,同研究において心血管疾患の累積発症率を12年間にわたり前向きに追跡した結果,CKDのある群はCKDがない群に比べて心血管疾患の発症率が有意に高く(図2),CKDが心血管疾患の独立した危険因子であることが明らかとなりました。
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Campese 
CKD患者において心血管疾患のリスクが高いことは,近年のスタチンの大規模臨床試験においても明らかにされています。
例えば,TNT(The Treating to New Targets)において,冠動脈疾患(CHD)を有するCKD患者の心血管イベントリスクは,CKDのない患者に比べて有意に高いことが示されています(文献1)。
これらはいずれも,久山町研究を裏付ける知見です。CKDが心血管イベントの危険因子であることに関しては,今や世界中でコンセンサスが得られていると言えるでしょう。

CKDと脂質異常症
斉藤 
CKDは以前より高血圧や糖尿病との関連が指摘されています。
しかし,近年,脂質との関連性も注目され始めました。
CKDにおいては,心血管イベント発症リスクが高いことからも厳格な脂質管理が必要となります。
CKDに対するスタチンのエビデンスはいかがでしょうか。

Campese 
CKDにおけるスタチンの有用性は,高血圧患者におけるLDL-C低下療法による冠動脈イベント発症に与える影響を検討したASCOT-LLA(Anglo-Scandinavian Cardiac Outcomes Trial-Lipid Lowering Arm)(文献2)やCHD症例における積極的LDL-C低下療法による心血管イベントに与える影響を検討したTNTのサブ解析(文献1)などで報告されています。

LDL-C低下療法の腎機能および蛋白尿に与える影響
斉藤 たいへん興味深い知見ですね。
CKDに対するスタチンのLDL-C低下療法は,腎保護の面からも注目されていますが,これに関してはどのようなエビデンスがありますか。

Campese 
TNTでは,CKD症例および腎機能正常例のいずれにおいても,アトルバスタチンのLDL-C低下療法により推定糸球体濾過量(eGFR)が試験開始前に比べて上昇しました(図3)。
また,その上昇率は,積極的にLDL-Cを管理したほうが高いことがわかりました。
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われわれもCKD患者56例を対象とした前向き試験において,アトルバスタチンによるLDL-C低下療法が蛋白尿の排泄を抑制することを報告しています。
同試験では,蛋白尿を有するCKD合併高コレステロール血症患者にレニン‐アンジオテンシン系阻害薬で血圧をコントロールしたうえで,アトルバスタチン投与群と非投与群に無作為に割り付けて1年間観察しました。
その結果,アトルバスタチン群においてLDL-Cが203mg/dLから121mg/dLまで低下し,尿蛋白排泄量も有意に減少しました(図4)。
CKDの進行が抑制されたのではないかと考えます。
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斉藤 
スタチンによる腎保護の機序としては,どのようなことが考えられるのでしょうか。

Campese 
腎細胞の炎症反応や線維化は,脂質異常により促進されますので,スタチンによる腎保護作用の一部は脂質低下を介したものだと考えられます。
一方で,スタチンは,脂質低下とは独立した機序で腎保護作用を表すこともin vitroの実験や腎疾患モデル動物を用いた研究から認められています。
スタチンには,炎症性サイトカインやケモカインの発現抑制,メサンギウム細胞や血管平滑筋細胞の増殖抑制,血管内皮機能改善などのさまざまな影響が知られています。
例えばCooperらは,部分腎摘ラットにおいて,アトルバスタチンの投与により蛋白尿や糸球体硬化が抑制され,同時に腎臓のTGFβ1遺伝子発現やマクロファージ集積が抑制されたことを報告しています(文献3)。

(文献1)J Am Coll Cardiol 51: 1448-1454, 2008
(文献2)LANCET 361: 1149-1158, 2003
(文献3)Kidney Int 56 (Suppl 71): S31-S36, 1999


出典 Medical Tribune 2008.9.25
版権 メディカル・トリビューン社


<自遊時間>
最初CKD(kidney)という言葉を聞いた時、どうしてCRD(renal)でないかと違和感がありました。
COPD(pulmonary)は形容詞です。
そんな中、患者さんで元高校英語教師(直接は教わってはいませんが、偶然にも私の出身高校の教師もしてみえた方で最近「英語ことわざ」関係の本も出版されました)が来院された時にこのことを訊いてみました。
即座に「名詞の形容詞化は普通にあること。たとえばboy friendとか」という返事がかえってきました。
目から鱗(うろこ)でしたが、でもなんだかまだ心にシコリが残ります。
(英語圏で使われているので何の文句もないのですが)


<きょうの一曲> 「それが大事」
YouTube - 大事MANブラザーズバンド / 「それが大事」LIVE
http://jp.youtube.com/watch?v=HKg7--TKVtU


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by wellfrog2 | 2008-09-30 00:19 | 腎臓病


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