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2008年 10月 24日

胃癌術後のピロリ除菌

日本発のLancet論文で「胃癌術後のピロリ除菌」は当確!?
2008年8月にLancet誌に掲載された論文をきっかけに、消化器領域では長年の課題だった「ヘリコバクター・ピロリ除菌の適応拡大」が実現に向けて動き始めた。
日本ヘリコバクター学会は近くガイドラインを改訂し、ピロリ陽性者すべてを除菌の対象にする見込み。
保険適応についても、現状では消化性潰瘍のみに限定されているが、その拡大に向けて活動を本格化する。
 
近い将来、保険でピロリ除菌を実施できる対象は広がるのか。
広がるとすれば、どこまでが適応となるのか――。
原動力となったLancet論文のインパクトを紹介するとともに、関係者のインタビューを通じて、ピロリ除菌の適応拡大の行方を占う。

「最近、患者からピロリ除菌のことを聞かれることがあるが、胃潰瘍や十二指腸潰瘍以外の患者に、どのくらい積極的に除菌を勧めるべきかは悩ましいところ。今回のLancetに掲載された研究は、ずいぶん前から計画されていたし、全国規模の研究なので注目していた。今後、学会のガイドラインや保険適応がどう変わるのかにも、大いに関心がある」。
消化器内科が専門の田邊裕貴氏(旭川医科大学第三内科)は、話題のLancet論文についてこう評価する。

今夏、田邊氏をはじめ、多くの消化器内科医たちが注目したのが、8月2日発行のLancet誌に掲載された次の論文だ。

Effect of eradication of Helicobacter pylori on incidence of metachronous gastric carcinoma after endoscopic resection of early gastric cancer: an open-label, randomised controlled trial (The Lancet 2008; 372:392-397)
――早期胃癌内視鏡的切除術後の異時性胃癌の発生に与えるピロリ除菌の影響

この研究は、北大第3内科教授の浅香正博氏を責任研究者とし、国内の51施設が参加して10余年に渡って実施されたランダム化比較試験。
早期胃癌で内視鏡的切除術を受けたピロリ陽性の544人を、ピロリ除菌群とコントロール群に分けて追跡し、異時性胃癌(metachronous gastric carcinoma)の発生を調べた。

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図1 累積胃癌発生率(カプラン・マイヤー分析)
 
ここでいう異時性胃癌とは、切除後に、初発部位とは別の場所に発生した胃癌のこと。
早期胃癌の内視鏡的切除術後には、3年で4~10%程度にこの異時性胃癌が出現するといわれている。
 
観察の結果、3年間のフォローで、除菌群では9人の患者に異時性胃癌が発生したのに対し、コントロール群では24人に発生。
追跡不能者を除いた解析で、異時性胃癌のハザード比は、0.339(95%信頼区間:0.157-0.729、p=0.003)と、除菌群で胃癌の発生が有意に少ないことが明らかになった。

除菌には、ランソプラゾール30mg、アモキシシリン750mg、クラリスロマイシン200mgの3剤を使用し、それぞれ1日2回、1週間投与。検査は上部消化管内視鏡を用い、6カ月、12カ月、24カ月、36カ月に実施した。

この研究が世界的に注目されているのは、「ピロリ除菌による胃癌予防効果を証明した世界で初めての研究結果」(浅香氏)だからだ。

ピロリの除菌は現在、「胃潰瘍・十二指腸潰瘍におけるピロリ感染症」にしか保険上の適応が認められていないが、ピロリは発見当初から、胃癌や胃炎の原因になっている可能性が指摘されてきた。さらに、その後の研究で、ピロリ感染との関連性を裏付ける“証拠”が続々と上がり、胃癌や胃炎を発症するメカニズムも判明しつつある。

にもかかわらず、わが国で保険適応が認められなかったのは、医療経済的な事情もさることながら、臨床的なエビデンスが乏しかったからだ。
特に胃癌に関しては、大規模な臨床試験がいくつも実施されたが、はっきりと胃癌予防効果を示した試験はない。
これまでの試験が失敗したのは、胃癌の発生率が低いこともあり、除菌群と対照群で有意差を示すほど十分な症例数が集まらなかったことが一因とされる。
また海外の試験では、追跡開始後間もなく進行胃癌が発見されたものもあり、試験開始前の内視鏡によるスクリーニング検査の技術が不十分であった可能性も指摘されている。

その点、今回の試験は、世界的に見ても内視鏡検査技術が際立って高いとされる日本の医療機関が検査を担当しており、検査の精度に問題はない。
胃癌発生率が高い「早期胃癌の内視鏡的切除術後の患者」を対象としたことで、数百人程度のエントリーで統計的に有意な差を得ることにも成功している。

「ピロリ除菌による胃癌予防効果がこの試験で証明された」と考える浅香氏は、「これ以上の臨床試験を行う必要はない。少なくとも、早期胃癌の術後や胃MALTリンパ腫などについては、保険を使った除菌が可能になるようにしたい」と、意気込みを語っている。

<原文>
Effect of eradication of Helicobacter pylori on incidence of metachronous gastric carcinoma after endoscopic resection of early gastric cancer: an open-label, randomised controlled trial
http://www.thelancet.com/journals/lancet/article/PIIS0140673608611599/abstract

出典 NM online 2008. 10. 20
版権 日経BP社


<コメント>
「ヘリコバクター・ピロリ除菌の適応拡大」の話題です。
保険診療は本来疾病に対する治療について適応されるものと自分は解釈してきました。
そういった意味では、高血圧や脂質異常症の「治療」も幾許かの後ろめたさを感じていました。
今回の、胃がん発生予防のためのピロリ除菌は明らかに予防的医療行為です。
そういった意味でも適応拡大が認可されるかどうかは大いに興味のあるところです。

<きょうの一曲>
Janis Ian - At Seventeen (Covers SLD)
http://jp.youtube.com/watch?v=f3qyn2_AP-0&feature=related


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by wellfrog2 | 2008-10-24 00:25 | 消化器科


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