2008年 10月 28日
アセトアミノフェンが小児の喘息リスクを高める? 31カ国の6~7歳児20万人の調査結果、作用機序は不明 小児の発熱に対して広く用いられているアセトアミノフェン(海外での別名:パラセタモール)が喘息の危険因子になり得るという、気がかりな研究結果が報告された。 ニュージーランドMedical Research InstituteのRichard Beasley氏らが、生後12カ月間、あるいは過去12カ月間にアセトアミノフェンの投与を受けた6~7歳児を対象に喘息症状の有無を調査したもので、どちらの期間のアセトアミノフェン使用も、喘息症状リスクを有意に上昇させることが示された。 詳細は、Lancet誌2008年9月20日号に報告された。 この半世紀に喘息の罹患率が上昇した理由には諸説あり、多くの危険因子の関与が想定されている。新たな危険因子の同定を試みた著者らは、アセトアミノフェンに注目した。 アセトアミノフェンに胎内で、または小児期や成人以降に曝露すると、喘息罹患リスクが上昇するとの報告が複数あったからだ。 また、喘息の小児に対し、解熱を目的としてアセトアミノフェンを投与した場合、イブプロフェンに比べて喘息による外来受診が倍化するとの報告もあった。 アセトアミノフェンは非常に広範に用いられているだけに、喘息リスク上昇が有意なら問題は大きい。 著者らは、International Study of Asthma and Allergies in Childhood(ISAAC;喘息とアレルギー疾患の国際共同疫学調査)プログラムの第3期に、アセトアミノフェンの使用と喘息の関係を調べた。 第3期ISAACは、無作為に選んだ学校に在籍する6~7歳と13~14歳の小児を対象に行われたが、著者らはこのうち6~7歳児を分析対象とした。 6~7歳の小児の両親または保護者に質問票への回答を依頼し、喘息、鼻結膜炎、湿疹の症状について、また、生後12カ月間の発熱に対するアセトアミノフェンの使用歴、過去12カ月アセトアミノフェン使用頻度(使用なし、1年に1回以上、1カ月に1回以上)などについて尋ねた。 主要アウトカム評価指標は、解熱を目的とする生後12カ月以内のアセトアミノフェン使用と、6~7歳時点の喘息症状の関係に設定。ロジスティック回帰分析によりオッズ比を求めた。 31カ国の73医療機関が調査対象にした、6~7歳の小児20万5487人が条件を満たした。 まず、生後12カ月までのアセトアミノフェン使用と現在の喘息症状については、性別、居住国、言語、国民総所得で調整した多変量解析で、6~7歳時の喘息症状のリスク上昇と有意に関係していることが明らかになった。 オッズ比は1.46(95%信頼区間1.36-1.56)。生後12カ月間のパラセタモール使用の喘息に対する人口寄与リスク(注)は21%だった。 喘息症状のリスク上昇は、世界のどの国でも見られた(地域間の不均質性のp<0.005)。 生後12カ月間のアセトアミノフェン使用は、6~7歳時の重症喘息症状(過去12カ月間の喘鳴の頻度が4回以上または喘鳴による睡眠障害が週1回以上、もしくは喘鳴により呼吸の間に1語か2語しか発音できない状態を経験)のリスクも有意に上昇させていた。 オッズ比は1.43(1.30-1.58)、人口寄与リスクは22%。 生後12カ月間のアセトアミノフェン使用により、6~7歳時の鼻結膜炎のリスク(1.48、1.38-1.60)、湿疹のリスク(1.35、1.26-1.45)も有意に上昇していた。 人口寄与リスクはそれぞれ22%と17%だった。 喘息症状の場合に比べ、これらのリスク上昇の地域差は大きかった。 (注)人口寄与リスク(PAR: population attributable risk、人口寄与危険度ともいう): その疾患の中で問題となっている危険因子によって発症したと考えられる患者の割合(%) 一方、過去12カ月間のアセトアミノフェンの使用も、用量依存的に6~7歳児の喘息症状リスクを高めていた。 使用なし群に比べ、中頻度(1年に1回以上)使用群のオッズ比は1.61(1.46-1.77)、高頻度(1カ月に1回以上)使用群では3.23(2.91-3.60)で、重症喘息症状に対する人口寄与リスクは40%だった。 過去12カ月間のアセトアミノフェン使用は、鼻結膜炎、湿疹のリスクも有意に上昇させた。高頻度使用群のオッズ比はそれぞれ2.81(2.52-3.14)と1.87(1.68-2.08)、人口寄与リスクは32%と20%だった。 重症喘息症状のリスクは、中頻度使用群では1.33(1.15-1.53)、高頻度使用群では3.54(3.05-4.11)。 過去12カ月間のアセトアミノフェン使用の重症喘息症状に対する人口寄与リスクは38%となった。 得られた結果は、アセトアミノフェン曝露が小児喘息発症の危険因子であることを示唆した。 だが、作用機序は不明で、医療従事者や親にアセトアミノフェンのリスクとベネフィットを説明するに十分なエビデンスはなく、代替となる薬剤との差違についても情報が不足している。 使用頻度が高いだけに、小児に対するアセトアミノフェン使用のガイドラインを早急に構築するため、無作為化試験を含むさらに踏み込んだ研究が緊要だ。 原題は「Association between paracetamol use in infancy and childhood, and risk of asthma, rhinoconjunctivitis, and eczema in children aged 6-7 years: analysis from Phase Three of the ISAAC programme」 The Lancet 2008; 372:1039-1048 http://www.thelancet.com/journals/lancet/article/PIIS0140673608614452/abstract 出典 NM online 2008. 10. 24 版権 日経BP社 <きょうのサイト> ホクナリンテープの後発品で喘息が増悪? 皮膚吸収システムの違いが血中濃度に影響か http://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/mem/pub/report/200809/507717.html 後発品を先発品に戻した事例の分析発表が相次ぐ http://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/mem/pub/di/trend/200810/508260.html <自遊時間 その1> 10月26日の夜8時からNHK教育テレビで「新日本美術館」の放送をやっていました。 時間的に「篤姫」とかぶるので、再放送はきっと視聴率は低いと思います。 さてタイトルは 「ウィーン 美の旅?栄光と退廃の帝都」 http://www.nhk.or.jp/nichibi/weekly/2008/1026/index.html ゲストはドイツ文学者の池内紀さんでした。 13世紀から600年以上にわたってヨーロッパに君臨したハプスブルク帝国が集めたブリューゲル、ラファエロ、ベラスケスなどの珠玉のコレクションから始まり、19世紀末のクリムトを中心とするウィーン世紀末芸術が紹介されました。 もう1つのテーマは、街自体が芸術作品といわれる世界屈指の芸術の都ウイーンの街。 ウイーンにも住んだことのある、ゲストの池内さんが興味深いことを言っていました。 「ウイーンは人間の大きさに合った街。逢いたい人に逢い、逢いたくない人に逢わなくても済む。パリは大きすぎて逢いたい人にも逢えない」。 私もかつて観光旅行ではありますが、何だか神経質そうでウイーン市民はあまり好きにはなれませんでした。 しかし、「街の大きさ」という話はなかなか興味深いものでした。 皆さんのお住みになっている街はいかがでしょうか。 私は現在の街の規模には大変満足しています。 こんな放送を見ると、つい最近NHKの悪口を言ったばかりですが、やはりNHKは必要かなと思ってしまいます。 <自遊時間 その2> 舛添厚労相は閣議後の会見で、「週末に1人しか当直医がいなくて総合周産期母子医療センターと言えるのか」と批判。 「事故の情報も都から上がってこない。とてもじゃないけど任せられない」と声を張り上げた。 これに対し、石原知事は定例会見で、年金問題への舛添厚労相の対応を踏まえて「あの人は大見えきったつもりでいつも空振りする」とし、「医師不足にしたのは誰だ。東京に任せられないじゃなく、国に任せられない。 厚労省の医療行政が間違って、こういう体たらくになった」と言い返した。 http://www.asahi.com/national/update/1024/TKY200810240251.html <コメント> さて、どちらの言い分が正しいのでしょうか。 舛添厚労相が地元医師会に協力要請、妊婦死亡問題で 8病院に診察を断られた妊婦(36)が死亡した問題で、舛添要一厚生労働相は27日午前、東京都江戸川区医師会(徳永文雄会長)を訪問し、都立墨東病院の産科医不足問題への協力を要請した。 舛添厚労相は冒頭、「国と都、医師会が協力して、安心してお産ができる連携を作らないといけない。 そのためのご意見を伺いたい」とあいさつ。 徳永会長は「高度な異常分娩(ぶんべん)を扱う墨東病院をお手伝いできる開業医は限られる。背景には医師不足があり、良い方法を考えたい」と述べた。 http://www.nikkei.co.jp/news/shakai/20081027AT1G2700M27102008.html <コメント> 散々医師会を袖にした厚労省が、卒後研修という医療史上に残る愚策をさしおいて医師会に泣きついても。 それにこの行動は、本来都立病院の設立者の都知事の仕事では? 総論と各論を勘違いしています。 舛添厚労相がドンキホーテに見えてきます。 医師不足 全国医学部長病院長会議のまとめによると、2004年度の研修義務化以前は、新人医師の7割が大学に残っていたのに対し、義務化後は5割に減少。特に東北、四国地方などでは3割前後と激減した。 人手不足に陥った大学医局は、他の医療機関に派遣していた医師を引き揚げ、医師不足が顕在化した。日本医師会の調査では、大学医局の77%が、約3000医療機関への医師の派遣中止や減員を行い、約500施設が診療科の閉鎖を余儀なくされた。 読売新聞 2008.10.16 <きょうの一曲> ”How Deep Is Your Love”Bee Gees - How Deep Is Your Love http://hangloose.ti-da.net/c125875.html 読んでいただいてありがとうございます。 コメントお待ちしています。 他にもブログがあります。 ふくろう医者の診察室http://blogs.yahoo.co.jp/ewsnoopy (一般の方または患者さん向き) 葦の髄から循環器の世界をのぞくhttp://blog.m3.com/reed/ (循環器科関係の専門的な内容) 井蛙内科開業医/診療録http://wellfrog.exblog.jp/ (内科関係の専門的な内容)
by wellfrog2
| 2008-10-28 00:24
| 小児科
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