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井蛙内科開業医/診療録(2)

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2008年 11月 09日

地方の医師不足

地方の医師不足が問題となっています。
私自身は都会の高校・大学を卒業し都会で開業しています。
この都会での開業はある意味で必然でした。
地方には縁もゆかりもなく、そのために地方で開業する考えは全くありませんでした。

今まで大して問題にならなかった地方の医師不足が顕在化したのは、明らかに新たな卒後研修制度と医療費削減政策です。
政府はそのことを認めようとはしません。
認めるわけもありません。

大学医学部には経営母体があります。
具体的には国立、公立、私立そして大学校の防衛医大です。
自治医大、産業医大の位置づけはよくわかりません。

国立、公立(県、市)、私立それぞれに使命と建学の精神があります。
分かりやすい例として公立の横浜市立大学をとりあげてみます。

数年前のことです。
革新(?)市長が赤字財政の健全化のために、有識者による「大学審議会」を作り、大学解体も止む無しという結論を出しました。
ちっぽけな地方大学のことゆえ、そんなことはご存知ない先生方も多いのではないでしょうか。
結局は、今まで以上に横浜市に尽くすことという屈辱的な誓約をさせられて、一部の学部の解体による規模の縮小化ということで存続が決まりました。

そんな大学の卒業生が、横浜市から出て地方で働けといわれるのは大学も卒業生もとまどってしまうはずです。

しかし、現実はどうかというと平成19年まで60名の定員だったのが、平成20年には80名(20名は地域枠)、平成21年は90名となります。
増員30名はおそらく横浜市以外の神奈川県の市町村で働くように足かせをはめられることになりそうです。
もはや、市民税を投入する意味が失われているのです。
<関連サイト>
[PDF] 「公立大学法人横浜市立大学定款(案)」に関する 「大学人の会」の見解
http://www18.big.jp/~yabukis/2003/came-17.pdf
[PDF] 「市大を考える市民の会」通信
http://eba-www.yokohama-cu.ac.jp/~kogiseminagamine/news0220.pdf
話を戻します。
私立大学は私学助成金(違憲という意見もあります)を受けているとはいえ、国立大学とは設立趣旨がおおいに異なります。

(地方)国立単科医科大学の設立趣旨は一体なんだったんでしょうか。
まずはこの大学から「地方の医師不足」に国策として取り組むべきではないのでしょうか。

国立大学は国策に従い、公立大学は県なり市の政策に従い、私立は国策の影響を免れる。
それが筋(スジ)というものです。

地方分権を叫ぶなら、自治医大のような大学を増やし、ひも付き(?)の学生を養成する必要があります。
もちろん、学費は各自治体が負担することになります。

たとえば、国立の新設医科大学の多くは既存の地方国立大学と合併しました。
今一度切り離して、県に移譲して県立医科大学として学生をひも付きとする。
予算配分を国から県にというのならそのぐらいのことはすべきです。
そしてそれぞれの公立大学卒業生は県内なり市内で卒業後一定期間働く。
医師というだけで、国策であっちこっち動かされる。
違憲のにおいさえします。

大学入学時点で、そういったことを納得しておけば問題はありません。

ちょっと乱暴な意見でしょうか。

以下は ”NM online” に出ていた記事です。
特に賛成といった内容ではありませんが、紹介させていただきます。

地方の医師不足、その本当の原因とは?
……一番の問題は、実は地方の医学部に地方出身者が少なく、都市部出身者が多いことが最大の理由ではないか。
信大でも本県(長野県)出身者は例年2割いるかどうかであろうし、小生が接する全国の医学生から各大学の状況を聞いても地元は3割くらいの所が多く、さらに町村の出身者となると非常に少ない。

つまり都会で私立一貫校や塾など多額の投資をした者が、地方の医学部に多く進学しているという実態がある。

その者らが、従来は都市の大学の医局に「外様」で戻るより母校の医局に残ることがメリットが多いと判断していたのが、昨今の地方の切り捨てという世間の風潮の中、地方に残ることを避ける傾向にあり、ちょうど新制度で都市に研修病院が増えたことが重なり、都市に戻るようになったのが、地方の医師不足の主因だろう。

私も、この見方に同感である。
 
そもそも新臨床研修制度になる前から地方の農山村や漁村、
 つまり郡部は医師確保に悩まされてきた。
 
地方の医科大学が地方の医療を守るという本来の「公共的使命」から逸脱し、受験戦争のピラミッド構造に組み込まれ、時流に流されてきたことに問題があるのではないか。

 
厚生労働省が医師数増員を打ち出しているが、
農村部に医師が充足するのは数十年先になってしまうだろう。

 
地方分権は、まず医師確保から実践すべきではないか。
 
県によっては、医学部入試で地元出身者に特別枠を
設けているところもあるが、焼け石に水の感は否めない。

 
根本的に「地域の医師は地域が育てる」という方向へ、発想の転換が必要だろう。
 
こう言うと「教育を受ける権利」とか「職業選択の自由」を盾に
「都会の高校生が地方の医科大学に進んで何が悪い」と反論されそうだが、
何も都会の出身者に地方の医科大学へ来るな、と言っているのではない。

 
地方で医学を学ぶ以上は、医療が地域に密着している現実をしっかり認識した上で、
医療に託されている公共を担う「使命」を感じ取ってほしいのだ。

 
そうして少しでも多くの医学生に医療の手薄な地域、
切実に医師を欲している地域に残る勇気を持ってほしい。

 
人間の欲望をコントロールするのは難しい。
 
知識だけでは不可能だ。
 
しかし欲望のままでは社会システムは破綻する。
 
アメリカの金融危機がいい例だ。

 
人は何のために生きるのか。
 
この問いを医師教育の現場で発し続けることが大切だろう。


この記事に対するコメント

■「医師の使命感」だけでは解決できないのではないでしょうか。
私自身、医局の人事で地方の公立病院に約10年勤務しましたが、都会に帰って開業しました。
当直以外に官舎待機もあり24時間365日に近い拘束で残業手当も時間外手当もなく、「倒れる前に退職しないと早死にしそうだ」と真剣に思いました。
私が退職した公立病院は、最近医局から十分な数の医師を派遣してもらえず病棟閉鎖に追い込まれたそうです。
私の使命感が足りないからそうなったのでしょうか。
医師の待遇を考慮しなくても医局人事で医師を確保できた地方の公立病院の甘えがあったのではないでしょうか。

■同感です。
医者になるには私立大学は金持ちの子供しか進めません。
国公立でも医学部に合格するまでに塾や予備校にいかに投資するかが合格につながるという流れですね。
独学で医学部に入れるのはほんの一部なのでしょう。
でも、医師を養成するには税金がかかっている、一人1億くらいですか?、
せめて医師になるためには自分の実力だけでなく、税金がかかっているので何らかの社会への還元をしなくてはならないという意識を大学で教えてくれないのでしょうか?

■新医師臨床研修制度は、きっかけの一つであるものの、すべてとは言い難いと思います。
基本に四半世紀にわたる医師数抑制と診療報酬による公的医療費抑制策があり、「構造改革」としての地方行革による格差拡大、教育改革による国立大学の独立行政法人化、大学病院の独立採算制、大学院大学運営によって大学への医師集中せざるをえず、医師派遣機能が弱体化したのではないでしょうか。
つまり、絶対的医師不足に、構造改革が引き金を引いたということだと思います。各地で、医師の動態を検証すべきではないでしょうか。

■地方での医師不足は今に始まったわけではありません。
都会から医学部へ入学して、また都会へ帰っていく。
これも以前からの現象です。
つまり、地方へ残る理由がなければ、残りません。
大学の魅力でもいいし、地方での生活でもいいのです。
僻地を捨てて、寒村になるのと同じで、生活できなければいけないのです。
地方にその魅力があるのでしょうか?
その努力をしているのでしょうか?
公立の病院の多くは、駄目な市の職員が、総務や事務長をしています。
それで医療が成り立つでしょうか?
最近、市立病院などが閉鎖して、コメントが載っていますが、医師不足や研修医制度の問題以前に、経営のあり方が、あまりにもいい加減であることがあります。
すべての市立病院が閉鎖ではないのです。
医師不足を何とかやってきたのは、医療関係者が文句も言わずに、これまではやってきたからです。
僻地派遣にも耐えてきたからです。
研修医制度で、医局制度は破壊され、それも否定されたので、今の状態が、眼に見えてきただけです。

http://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/mem/pub/blog/irohira/200810/508039.html
出典 NM online 2008. 10. 6
版権 日経BP社


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by wellfrog2 | 2008-11-09 00:36 | 未分類


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