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井蛙内科開業医/診療録(2)

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2008年 11月 18日

急性虫垂炎の診断

急性虫垂炎については、以前にこのブログでとりあげました。

急性虫垂炎の診断
http://wellfrog.exblog.jp/6883879

私は、「帯状疱疹」「妊娠」と並んでしばしば診断を間違えやすい疾患として常日頃から肝に銘じています。
「フナ釣りに始まりフナ釣りに終わる」の感のある疾患です。

この前も、尿管結石の既往がある若い男性が腹痛を訴えて来院しました。
右下腹部に圧痛があるために虫垂炎を疑い、病院に紹介して事なきを得ました。
診断は壊死性虫垂炎でした。

患者のいうことを信じ過ぎても疑い過ぎてもいけないという教訓を得ました。


急性虫垂炎の的確な診断 依然として診察の重要性は揺るがず
急性虫垂炎の診断においては,現在でも医師による診察が決定的な意味を持っている。
聖クララ病院(バーゼル)外科のIda Montali博士らは「上腹部痛またはびまん性の腹痛が時間の経過とともに右下腹部へと移ってきたら,必ず虫垂炎を疑ってみるべきである」とSchweizerisches Medizin-Forum(2008; 8: 451-455)で解説した。

はっきりしない場合は経過観察
虫垂炎の典型的症状としてはほかに悪心があり,便秘が認められることも多い。
マックバーニー点の圧痛も虫垂炎を示唆しているが,疼痛部位は虫垂の位置次第で,この位置にはかなりの個人差があることに注意する必要がある。
さらに,虫垂炎では腹膜刺激症状(板状硬,叩打痛,反跳痛)と腸腰筋微候陽性も認められる。
 
虫垂炎患者では,腋下体温より直腸体温のほうが0.5〜1.0℃高いことがあるが,必ずしもそうとは言い切れない。
また,大半の患者で白血球数とC反応性蛋白(CRP)値が上昇しているが,例外も存在する。
したがって,白血球増多のみを手がかりとして手術の適応を決定すべきではない。
 
臨床上,急性虫垂炎が疑われる患者において,超音波検査で同心円状の特徴的な虫垂像が描出されるか,
(1)プローブで圧迫してもつぶれない
(2)虫垂内腔が低エコーである
(3)虫垂の径が8mmを超えている
−といった所見が得られれば,虫垂炎である可能性が高い。
 
しかし,正常な虫垂は超音波では描出されないことも多く,肥満患者の場合にも同検査はあまり役に立たない。
CT検査は感度,特異度ともに98%と有用である。
ただし,日常的な検査法としてルーチンに使用する診断法ではない。
 
Montali博士は「虫垂炎かどうかがはっきりしない場合には,患者を入院させて臨床症状と臨床化学検査値を頻回にチェックしながら,経過観察を行うべきである」と指摘している。
患者の約3分の1では疼痛が自然に消失するため,不要な虫垂摘出術の施行件数を減らすことができるという。
診断法が進歩した今日でも,誤診率は約5%にのぼる。
 
急性虫垂炎治療における第一選択は今なお虫垂摘出術である。
抗菌薬療法の効果は実証されておらず,まず最初に保存的治療を受けた患者の多くが結局は手術を余儀なくされている。そ
れでは,炎症を生じた虫垂は直ちに切除すべきなのだろうか。
この点について,同博士は「最初に疼痛が発現してからの経過時間が重要であり,その時間次第では手術を数時間遅らせても穿孔リスクは上昇しない」と述べている。
 
さらに,術式に関して,開腹術と腹腔鏡下手術のいずれを選択するかは術者の経験次第である。
というのも,少なくとも現時点では腹腔鏡的手技の優位性は明確には証明されておらず,いずれの方法でも得られる成績は同等であるからである。
同博士は,臨床的に判然としない点がある患者に対しては,同時に術中検査を行える腹腔鏡的手技を優先しているという。

出典 Medical Tribune 2008.11.13
版権 メディカル・トリビューン社


急性虫垂炎の診断_f0174087_8362856.jpg

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<きょうの一曲> "翼の折れたエンジェル"
中村あゆみ・翼の折れたエンジェル
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<自遊時間>
日本医事新報 NO.4280 (2006.5.26)の巻頭の「プラタナス」で国立長寿医療センターの大島伸一総長が「医者が尊敬されなくなった理由」というタイトルでエッセイを書いてみえます。

『100%を求める患者と100%を保証できない医師。
そのジレンマをどう埋めるか。
結果責任を法や金で清算するやり方では溝は広がるばかりだろう。
医師が尊敬されなくなったのは、個と社会との関係やバランス感覚の欠如、複雑な生命体であるひとを総体としてみるという視野の欠落などを背景に、医師・患者関係の基本である「信頼」という意味や価値がわからなくなったからではないか。』

と結論づけています。

医療訴訟やモンスター患者を、総長としての立場で体験してのエッセイと思います。
昔と比べて。尊敬されているかされていないかは私自身何とも判断できません。
幸い医療訴訟に巻き込まれた経験はありませんが、モンスター患者が増えているのは実感しています。
先生方の感想はいかがでしょうか。


読んでいただいてありがとうございます。
コメントお待ちしています。
他にもブログがあります。
ふくろう医者の診察室http://blogs.yahoo.co.jp/ewsnoopy
(一般の方または患者さん向き)
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by wellfrog2 | 2008-11-18 00:10 | 感染症


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