井蛙内科開業医/診療録(2)

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2008年 11月 27日

日本人2型糖尿病患者の治療

周知のように、肥満の割合が高い欧米と比べ,肥満の割合が低い日本の2型糖尿病患者では,インスリン分泌の低下が病態の主体となっています。
きょうは、このような病態に則した日本人特有の糖尿病治療についての座談会で勉強しました。
 

座談会
肥満の少ない日本人2型糖尿病患者に対する治療のあり方


司会:
東北大学大学院分子代謝病態学分野教授
岡 芳知 氏 

コメンテーター:
東京医科大学内科学第三講座主任教授
小田原 雅人 氏 
出席:
東北大学大学院再生治療開発分野教授
片桐 秀樹 氏 
奥口内科クリニック院長
奥口 文宣 氏
山田憲一内科医院院長 
山田 憲一 氏
東北労災病院糖尿病代謝内科副院長
  赤井 裕輝 氏 


非肥満例が多い日本人糖尿病患者 専門医の第一選択薬はSU薬
岡 
本日は,日本人の2型糖尿病治療について,病態に即した治療方法や適切な薬剤選択のあり方を中心に討議してまいりたいと思います。
 
まず,小田原先生,血糖コントロールの重要性についてどのようにお考えでしょうか。

小田原 
1型糖尿病患者を対象としたDCCTにより,血糖値を良好にコントロールするほど,網膜症,腎症といった細小血管症の発症が抑制されることが示されました(図1)。
血糖値の正常化は,人種差を越えて細小血管症の発症抑制につながることが疫学的にも明らかになっています。
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岡 
続いて,日本人の2型糖尿病患者の病態についてお伺いします。
日本では欧米ほど2型糖尿病患者の肥満の割合は高くありません。
日本と欧米における2型糖尿病患者の肥満度の違いについてご説明くださいますか。

小田原 
米国人糖尿病患者のBMIは平均32程度であるのに対し,日本人糖尿病患者のBMIは平均23.5程度です(図2)。
つまり,欧米では2型糖尿病患者のほとんどが肥満といっても過言ではありません。
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そうしたことから2006年に発表された米国糖尿病学会(ADA)と欧州糖尿病学会(EASD)の統一見解では,2型糖尿病と診断された患者には,生活習慣の改善とともにメトホルミンの投与が推奨されています。
欧州,米国では2型糖尿病患者に肥満傾向があることを前提にしているためです。
日本では非肥満例が2型糖尿病患者の3分の2を占めるのが現状であり,これをそのまま当てはめることは難しいと思います。

岡 
それでは,日本では2型糖尿病治療においてどのような薬剤選択が行われているのでしょうか。

小田原 
非肥満例が多い日本人の2型糖尿病患者には,スルホニル尿素(SU)薬をはじめとするインスリンの分泌を促進する薬剤の血糖低下効果が高いです。
 
2006年に行われたアンケート調査(日経メディカルオンライン,2007)において,糖尿病専門医が2型糖尿病の第一選択薬として最も多く回答したのは,非肥満例でSU薬,肥満例でビグアナイド薬でした。

肥満はSU薬の効果発現に大きく影響
岡 
海外のデータですが,SU薬の投与により,血糖値がひとまず低下するものの,次第に上昇に転じて投与開始1年後には投与前値に戻ってしまうという報告がありました。

山田 
日本における非肥満糖尿病の例では,体重増加がない場合,少量のSU薬で長期間にわたってコントロールが維持されることも少なくありません。
欧米では通常,診療は3?4か月に一度です。
きめ細かな患者への指導を行いにくいという状況なので,このこともSU薬の効果に対して影響しているかもしれません。

岡 
欧米人は日本人の2型糖尿病患者より対象の肥満度が高いだけではなく,生活習慣の改善が不十分であることも影響している可能性が大きいですね。

片桐 
米国白人の場合,基本的に膵β細胞が肥大化し,かろうじて血糖値を正常に維持している状況で肥満度が高まり続けるので,糖尿病を発症した時点でインスリンを分泌する予備力をかなり失っている例が多くあると考えられます。
そうしたことから欧米の2型糖尿病患者にSU薬を投与すると,一時的には効果を示しますが,いずれ膵β細胞が機能不全に陥ってしまうと考えています。

岡 
欧米人のインスリン分泌能は日本人の3倍近いですからね。

赤井 
肥満を呈していない日本人糖尿病患者でも,過去に肥満があり,極度の血糖コントロール不良を呈する間に次第に痩せていってしまうことがよくあります。

岡 
肥満自体が,膵β細胞に負担をかけているようにも思えます。
確かに肥満歴は血糖コントロールに影響を及ぼしますね。

山田 
非肥満例であれば,SU薬の少量投与によって比較的長期間,安定的に血糖をコントロールできると思います。

小田原 
清野裕らのデータによると,日本人の場合,空腹時血糖値が100mg/dL程度まで上昇すると,インスリン分泌量が増加しますが,空腹時血糖値がそれ以上になると,インスリン分泌量も低下します。
ところが米国白人の場合,空腹時血糖値が100mg/dLを超えた程度では,インスリン分泌量は低下しません。

インスリン抵抗性に対するSU薬の影響
小田原 
日本人に多く見られる比較的軽度の血糖上昇でインスリン分泌が低下する例では, SU薬が有効な場合が多いと考えられます。
また, SU薬が膵β細胞を疲弊させるという説はUKPDSの結果では否定的でした。
 
第3世代のSU薬のグリメピリド(アマリールR)では,新規症例に対する6か月投与でHbA1C値を平均7.6%から6.5%にまで低下させました(図3)。
しかも,最終評価時の投与量は平均1mg/日と低用量でした。
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片桐 
白人では,SU薬が効果を示さないわけではありません。
ただ,血糖改善効果が長期に持続しないのは,糖尿病を発症する時期まで膵β細胞に非常に大きな負担がかかっており,発症後にさらに負担が増すからと考えます。

小田原 
SU薬の日本人に対する血糖低下作用は長期にわたって持続するという報告が多いようです。
また,グリメピリドがアディポネクチンを上昇させることも報告されています。

奥口 
グリメピリドがインスリン抵抗性を改善するという文献もありますね。

赤井 
グリメピリドは,ある程度抗酸化作用も有すると言われていますがどうなのでしょうか。

小田原 
グリメピリドにインスリン抵抗性改善作用があることは間違いありませんが,そのメカニズムには諸説あり,何が主な作用か明らかではありません。
ただ,アディポネクチンの分泌を促進し,それ以外の悪玉アディポカインの分泌を抑制することもインスリン抵抗性改善の機序の1つと思われます。

糖尿病性腎症をいかに抑制するか
岡 
奥口先生はグリメピリド投与例を対象に糖尿病性腎症を検討したデータをお持ちとのことですが,ご紹介いただけますか。

奥口 
糖尿病データマネジメント研究会(JDDM)に参加している施設のデータを元に,後ろ向き研究で2,251例の2型糖尿病患者におけるグリメピリド投与前後のHbA1C値と尿中微量アルブミン量(U-ALB)の増減について検討しました。
 
これによると,HbA1C値は投与開始3か月後に低下し,それが12か月後まで持続しました。
また,U-ALBの低下も見られました。
なお,12か月後に収縮期・拡張期の血圧も低下が観察されました。

岡 
血圧を低下させたメカニズムについては,どのようにお考えですか。

奥口 
グリメピリドの投与により血糖値が低下し,インスリン抵抗性が改善することが,血圧を低下させている可能性があると考えます。

体重増加を来しにくいグリメピリド
岡 
SU薬は原則的に体重増加を来しやすく注意が必要ですが,グリメピリドに関してはどのような印象をお持ちですか。

小田原 
グリメピリドとグリベンクラミド(ダオニールR)を比較したところ,BMIの低下度がグリメピリド投与群で大きかったと報告されています(Martin S, et al: Diabetologia 46: 1611-1617, 2003)。
グリメピリドは低血糖の発現頻度が低いので,それも体重増加の抑制に関係していると思います。

岡 
SU薬による脳のATP感受性カリウム(KATP)チャネルへの刺激が,食欲の増減に関与している可能性があるのではないかと思うのですが,片桐先生はどうお考えですか。

片桐 
経口血糖降下薬は,血糖値を低下させることにより,体重の増加に影響を及ぼすと思います。
なおかつインスリン分泌が促進されれば,体重が増加しても不思議ではありません。
さらにSU薬は,脳のKATPチャネルに働きかけ,食欲を増やすことも報告されています(Spanswick D, et al: Nature 390: 521-525, 1997)。

岡 
グリメピリド投与により患者の体重が増加し,対処に苦慮した経験はありますか。

赤井 
多少体重が増加しても血糖値の正常化を優先し,その後で体重対策を行うという方針で治療していますが,グリメピリド投与により体重が増加した例は経験していません。

奥口 
先程のJDDM研究の際にBMIも検討しています。
6,967例にグリメピリドを投与した際に,開始時と12か月後で変化は認められませんでした。

山田 
理想的な経口血糖降下薬の条件としては,十分な血糖改善効果を有する一方,低血糖を起こしにくく,体重増加を来さず,膵β細胞に対し保護的な作用があることなどがあります。
これらを踏まえ,欧米ほど肥満の割合が高くない日本の2型糖尿病患者の病態を考慮すると,どのような薬剤選択をすべきなのでしょうか。

小田原 
日本人の2型糖尿病患者において,HbA1C値を十分低下させ血糖コントロールを維持するためには,多くの場合SU薬は欠かせない薬だと思います。
科学的根拠に基づく糖尿病診療ガイドラインにも,細小血管症の抑制についてエビデンスがあるのはSU薬とメトホルミンだけであると記載されており,世界的に評価の確立した薬剤と言えるでしょう()。
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岡 肥満の割合が少ない日本人の2型糖尿病患者には,SU薬をベースにした治療が適しているということですね。

出典 MT pro  2008.11.20
版権 メディカル・トリビューン社


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by wellfrog2 | 2008-11-27 00:26 | 糖尿病


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