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井蛙内科開業医/診療録(2)

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2008年 07月 14日

経口bisphosphonate系に伴う顎骨壊死

経口bisphosphonate系に伴う顎骨壊死を懸念するべきか?
Should We Be Concerned About Jaw Osteonecrosis with Oral Bisphosphonates?

bisphosphonate関連顎骨壊死(bisphosphonate-related osteonecrosis of the jaw:
BRONJについて医師に質問する患者が増えている。
患者のなかには、医師に推奨されたbisphosphonate系薬物の使用を開始する前に、インターネット上でこの問題について自分自身で調査を行っている人もいる。
別の事例では、これらの薬物を服用している患者に対して侵襲的歯科治療を行うことを歯科医が躊躇している。
プライマリケア医はこれらの患者や歯科医にどのように対応すべきだろうか。

まず、背景を一部紹介する。
BRONJは、bisphosphonate療法を現在受けている、あるいは過去に受けた患者において、顎顔面領域に認められる露出した壊死骨で8週間を超えて持続しているものと定義される。この疾患は、自発的に、あるいは侵襲的歯科治療後に起こりえる。
病変はしばしば拡大し、歯槽骨を広く侵すことがあり、有効性が証明された治療はない。
BRONJの報告が最初に表に出たのは約5年前で、おもに、高カルシウム血症および骨転移に対してbisphosphonate系薬物の静脈内投与を受けた癌患者で報告された。
専門家の間では、高用量で反復投与されることの多いbisphosphonate系薬物の静脈内投与と顎骨壊死の関連性が一般に認められている。

経口bisphosphonate系薬物については、データの裏づけは弱い。
症例報告およびサーベイランスでは、骨粗鬆症の治療のために経口bisphosphonate系薬物の投与を受けたなかで顎骨壊死が認められたのは比較的少数の患者であった。
例えば、最近の文献レビューでは、26症例を含む11件の公表された報告が確認された。
オーストラリアの口腔外科医に送付された調査では、94人の臨床医から回答があり、36症例が報告された。
対照的に、経口bisphosphonate系薬物を服用した患者115人に対し468件のインプラントを施行したNew Yorkの大規模な歯科診療所では、BRONJ症例は認められなかった。
さらに、女性1099人が経口alendronate を5~10年服用したFLEX研究では、症例は報告されなかった。

最近、研究者らは、この問題について、これらよりは若干ではあるがさらに集団に基づいた分析を試みた。
大規模な健康保険プランのデータベースにある医療保険金請求を分析した。
経口bisphosphonate系薬物の処方箋調剤を受けた骨粗鬆症患者180,000人では、経口bisphosphonate系薬物と骨壊死の間に関連性は認められなかった。
しかし、この研究には重要な制約があった。顎骨壊死に関するICD-9コードが存在しないため、研究者らは、顎骨壊死の代理マーカーとして他のコード(例、顎の炎症の診断コード、顎手術の治療コード)を使用しなければならなかった。

我々は、経口bisphosphonate系薬物による治療を受け、侵襲的治療後または明瞭な外傷がなく歯槽骨が露出した患者に出会ったことがある歯科医および口腔外科医から話しを聞いた。
これらの公表されていない事例観察は、因果関係をほとんど証明しないものの、少なくとも2つの理由から、簡単に片付けられるべきものではない。
第一に、bisphosphonate系薬物の静脈内投与が顎骨壊死を引き起こしうることを認めるのであれば、経口療法が感受性の高い人において同じ合併症を引き起こす場合があると想定するのは理にかなっている。
第二に、生検で証明された重度の骨代謝回転の低下(大腿骨、骨盤、肋骨の自然骨折につながる)が長期的な経口bisphosphonate療法後の患者数人で記載されている。

米国口腔顎顔面外科学会(American Association of Oral and Maxillofacial Surgeons:AAOMS)は、BRONJに関するポジションペーパーを発表した。
著者らは、公表されているデータの制約を認識しているが、経口bisphosphonate系薬物の投与を受けた患者に顎骨壊死が生じることがあると考えている。
経口bisphosphonate系薬物の服用が3年未満で、リスクファクターと考えられる特徴(報告に記載1)がない患者に対しては、必要な歯科治療の変更や遅延を推奨していない。
しかし声明では、経口bisphosphonate系薬物を3年を超えて服用している患者については、口腔外科手術の3ヵ月前に薬物を中止し、骨性治癒が起こってから初めて再開することを処方医師に強く勧めている。
著者らは、これらの推奨が合意の上での判断であり、まだ根拠に基づくものではないことを認めている。
ここで、最初の質問に戻ることにする。
プライマリケア医は、BRONJを懸念する患者および歯科医にどのように対応すべきだろうか?我々の見解では、経口bisphosphonate療法を考えている患者には、小さなリスク(まだ定量化することができず、おそらく数年間の治療の後にしか現れない)がありえそうだと伝えるべきである。
骨粗鬆症が確認された患者の大部分と、骨折のリスクファクターが複数ある骨減少症患者については、bisphosphonate系薬物の考えられる利益の方がリスクよりも大きい。
しかし、臨床医のなかには、適応の有無がぎりぎりの患者に(例、軽度の骨減少のある閉経したばかりの健康な女性に対して)bisphosphonate系薬物を処方しているものもいる。
比較的若い患者に対しては、bisphosphonate療法を遅らせるのが賢明と考えられる。
何年もあるいは何十年もbisphosphonate系薬物に曝露することで、思いがけない害がもたらされるかどうか、我々にはただ分からないのだから。

経口bisphosphonate系薬物をすでに服用しており、侵襲的治療が必要なため歯科医に中断を薦められている患者はどうであろうか?
AAOMSの推奨は、自ら認めているように、意見に基づくもので、確かなデータに基づくものではないが、一時的な薬物の中止は理にかなっている。
一方では、bisphosphonate療法の中断により歯科治療がより安全になることを示す証拠はないが、他方では、bisphosphonate系薬物をすでに数年間服用した患者において、6ヵ月ないし12ヵ月の「休薬」が骨折リスクを大きく変える可能性は低い。
実際、FLEXのデータから、多くの患者には、5年間の積極治療後の5年間の休薬が適当であることが示唆される。

実地医家と患者は、不確かな状態で臨床決定をせざるを得ないことがしばしばある。
BRONJに関する状況も例外ではない。bisphosphonate系薬物は、利益の証明された非常に有用な薬物であるが、シクロオキシゲナーゼ(cyclooxygenese:COX)-2阻害薬、遺伝子組み換えerythropoietin、rosiglitazone、閉経後ホルモン療法に関する最近の展開から、薬物療法の予期しない影響に心を開いておくべきであることが思い起こされる。

— Allan S. Brett, MD, and Peter B. Lockhart, DDS
Dr. Lockhart is Chair of the Department of Oral Medicine and Director of the Oral Medicine Institute at Carolinas Medical Center in Charlotte, North Carolina. Published in Journal Watch General Medicine April 8, 2008

Citation(s):
1. Advisory Task Force on Bisphosphonate-Related Osteonecrosis of the Jaws. American Association of Oral and Maxillofacial Surgeons position paper on bisphosphonate-related osteonecrosis of the jaws. J Oral Maxillofac Surg 2007 Mar; 65:369. (http://www.aaoms.org/docs/position_papers/osteonecrosis.pdf)
Medline abstract (Free)

2. Khosla S et al. Bisphosphonate-associated osteonecrosis of the jaw: Report of a task force of the American Society for Bone and Mineral Research. J Bone Miner Res 2007 Oct; 22:1479. (http://dx.doi.org/10.1359/JBMR.0707ONJ)
Medline abstract (Free)

3. Bilezikian JP. Osteonecrosis of the jaw — Do bisphosphonates pose a risk? N Engl J Med 2006 Nov 30; 355:2278.
Medline abstract (Free)

4. Pazianas M et al. A review of the literature on osteonecrosis of the jaw in patients with osteoporosis treated with oral bisphosphonates: Prevalence, risk factors, and clinical characteristics. Clin Ther 2007 Aug; 29:1548.
Medline abstract (Free)

5. Mavrokokki T et al. Nature and frequency of bisphosphonate-associated osteonecrosis of the jaws in Australia. J Oral Maxillofac Surg 2007 Mar; 65:415.
Medline abstract (Free)

6. Grant B-T et al. Outcomes of placing dental implants in patients taking oral bisphosphonates: A review of 115 cases. J Oral Maxillofac Surg 2008 Feb; 66:223.
Medline abstract (Free)

7. Black DM et al. Effects of continuing or stopping alendronate after 5 years of treatment. The Fracture Intervention Trial Long-term Extension (FLEX): A randomized trial. JAMA 2006 Dec 27; 296:2927.
Medline abstract (Free)

8. Cartsos VM et al. Bisphosphonate use and the risk of adverse jaw outcomes: A medical claims study of 714,217 people. J Am Dent Assoc 2008 Jan; 139:23.
Medline abstract (Free)

9. Odvina CV et al. Severely suppressed bone turnover: A potential complication of alendronate therapy. J Clin Endocrinol Metab 2005 Mar; 90:1294.
Medline abstract (Free)


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by wellfrog2 | 2008-07-14 00:13 | 骨そしょう症


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