2008年 08月 04日
Medical Tribune誌の記事で呼吸器の勉強をしました。 ATS2008に参加された先生の学会印象記です。 印象記 ~第104回米国胸部学会・国際会議(ATS2008)~ 基礎から臨床まで広範な演題が展開 東京大学大学院呼吸器内科学教授 長瀬 隆英 第104回米国胸部学会・国際会議(American Thoracic Society/ International Conference)が5月16~21日にカナダ・オンタリオ州トロント市で開催された。 同学会は,American Thoracic Society(ATS, 1905年創立)の年次学術総会であり,例年,北米およびカナダで開催されている。 ちなみに,カナダで開催されるのは1933年(トロント),75年(モントリオール),2000年(トロント)に次いで4回目である。 通称は”ATS Meeting”であるが,90年以降,国際会議に形を改めた。 近年,学会参加者数の増加は著しく,1万5,000人以上が参加するマンモス学会となっている。 また国際会議の名にふさわしく,世界各国から呼吸器臨床・研究にかかわる参加者が集合する。 最近では,「From Bench to Bedside」というキャッチフレーズを前面に出しているが,ベンチサイドトピックスとしての研究企画から,大規模臨床試験の検証に至るまで,実に広範なセッションが提示される。 今回,ベッドサイドの視点ではあるが,筆者が興味を持っている慢性閉塞性肺疾患(COPD)関連の発表を中心に寄稿する。 COPDは「取り残された生活習慣病 日本に限らず,先進諸国では高齢化が進んでいる。 高齢者呼吸器疾患の社会的重要性は世界中で急増しつつあり,なかでもCOPDは特に注目されている。 世界保健機関(WHO)によると,2020年には,世界の死亡要因の第3位がCOPDとなることが予想されている(図 1)。 このような事態にあって,米国立心肺血液研究所(NHLBI)とWHOの参加のもと,Global Initiative for Chronic Obstructive Lung Disease(GOLD)という組織が発足した。 GOLDの目的は,COPDの認識を高め,予防・診断・治療に対する枠組みを提供することで,COPDの罹患,およびそれによる死亡を減少させることにある。 また,COPDは「喫煙という生活習慣」によって発症する疾患とも捉えられる。 死亡率の高さから,呼吸器関係者はCOPDを,「取り残された生活習慣病」と位置付けている(図 2)。 COPDアウトカムをいかに検証するか このように,COPDは呼吸器系のなかでも最重要疾患の1つであり,COPDに関する新知見は日常臨床に直結する。 GOLDガイドラインの 最新版は2006年版(GOLD updated 2006)であるが,その後の新知見を求める学会参加者が,COPD研究発表に多数集まった。 ATS事務局も,最大の会場を用意したようである。 さて,COPDアウトカムの検証・評価のセッションでは,最近の新データや仮説が提示された。 発表者のなかで目立ったのは,Sethi S(ニューヨーク州立大学バッファロー校)とSin DD(ブリティッシュコロンビア大学,バンクーバー)である。 Sethiは,COPDアウトカムの評価のためには,”Patient Reported Outcome(PRO)”,が重要であり,今後期待が持てることを強調していた。 これは,患者本人の自覚症状を重視する立場からのアプローチであり,聴いていて想起されたのは,2006年版気管支喘息ガイドラインGINAの変更点である。 今後,COPDにおいてPROがいかに評価(あるいは批判)されていくかが注目される。 また,Sinは,COPD予後因子(COPD Prognostic Index;CPI)についての多面的な解析結果を発表した(Arch Intern Med 2008; 168: 71-79)。 興味深いのは, (1)COPD死亡に最も関連する因子は年齢であり,最も関連が乏しいのがQOLである (2)COPD増悪については強く関連する因子はQOLであり,関連が乏しいのは年齢である (3)%FEV1.0(1秒量の予測値に対するパーセント値)はCOPD死亡と増悪のいずれにも強く関連する ―ことである。 そして,いわゆるGP's Office (家庭医の診療所)においても実行可能なスコアを開発すべきであると主張していた。 また,Agusti(スペイン)はCOPDアウトカムの指標となるべきバイオマーカーの同定について現状報告を行ったが,従来のCRPあるいはインターロイキン(IL)-6に比べ,血清中surfactant protein(SP)-Dが有効である可能性に言及した。 これは,Sinらのグループのトライアル(289例, %FEV1.0平均値47.8%)において,フルチカゾン単独群とフルチカゾン+サルメテロール群を検証したところ,フルチカゾン+サルメテロール群で血清中SP-D値の低下が認められたからである(Am J Respir Crit Care Med 2008; 177: 1207-1214)。 血清中SP-D値が,果たして本当にCOPDアウトカムの指標バイオマーカーとなりうるのかどうか,今後の検証に期待したい。 COPD増悪を巡って また,5月18日午後の「COPD増悪の疫学・予防・治療」のセッションにも,多数の参加があった。 初めに,まずCOPD患者本人の自己紹介があったのには驚かされた。 この患者さんは,30歳代前半に息切れが出現し受診したところ,「喘息」と診断(あるいは誤診misdiagnosed)された。 2年後に転医し,ようやくα1アンチトリプシン欠損症によるCOPDと正診された。 その後,両肺移植を受け,現在,壇上に立っている,というのである。 このセッションは,Wedzicha JA(英国),Celli(タフツ大学),Calverley(英国)といった著名な研究者がおもにレビュー的な解説を行った。 Wedzichaは,"exacerbation"という単語の語源がラテン語の"exacerbare”に由来すると解説し,筆者の参考になった。 また,Calverley は自らが中心となって遂行したTORCH study(N Engl J Med 2007; 356: 775-789)に加え,現在進行中のUPLIFT(Understanding the Potential Long-Term Impacts on Function with Tiotropium)試験にも触れていた。 このUPLIFT試験は,COPD患者を対象として,長時間作用型吸入抗コリン薬チオトロピウムの介入効果を4年間の長期にわたり検討するという大規模試験であり,その概要が公開されるのは今秋と言われている。 このセッションで興味深かったのは,現在進行中のCOPD増悪に対する5-リポキシゲナーゼ阻害薬(zileuton)による介入試験である。Make(コロラド大学)によると,同試験はCOPD患者(対象は,%FEV1.0 60%未満, 45歳以上)を,増悪時にステロイド単独投与群とステロイド+zileuton群に割り付け,それぞれ14日間投与し,30日後に入院期間をprimary outcomeとして検証するもの。 ちなみに,5-リポキシゲナーゼはアラキドン酸を基質とし,ロイコトリエン(LT)B4およびCys-LT(LTC4, LTD4, LTE4)の上流で産生される酵素である。 したがって,5-リポキシゲナーゼの阻害により,LTB4およびCys-LTsのいずれもが産生抑制され,炎症の制御,増悪の改善が期待される。アラキドン酸カスケードの代謝産物のなかでも特にLTB4およびCys-LTsは,ごく微量で強力な生理活性作用・炎症誘起作用を呈するのが特徴である。 呼吸器系において,ロイコトリエンはおもに気管支喘息の治療標的であったが,同試験はCOPD増悪に対する新しいアプローチであり,結果が注目される。 出典 Medical Tribune 2008.6.12 版権 メディカル・トリビューン社 坂口紀良 「果物の静物」 油彩10号 http://page12.auctions.yahoo.co.jp/jp/auction/p123346648
by wellfrog2
| 2008-08-04 00:07
| 呼吸器科
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