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井蛙内科開業医/診療録(2)

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2008年 08月 13日

甲状腺手術後のホルモン補充療法

生涯にわたるTSH管理が必要
〔独ウィースバーデン〕たとえ基礎疾患が良性であっても,甲状腺手術や放射性ヨード療法の適用を受けた患者には生涯にわたるアフターケアが必要である。ライプチヒ大学病院(ライプチヒ)第3内科のDagmar Führer教授は「甲状腺手術後にホルモン補充療法(HRT)が必要か否かは,切除範囲次第である」とウィースバーデン甲状腺シンポジウムで報告した。

亜全摘/全摘例では直ちに投与 
例えば,甲状腺片葉切除術後,まだ十分な残存組織がある場合は,差し当たりHRTを見合わせることも可能である。
しかし,甲状腺亜全摘出術または甲状腺全摘出術では,甲状腺機能低下症を回避するため,患者には術後直ちにレボチロキシン1.6〜1.8μg/kg/日の投与を開始する。
 
甲状腺の片葉切除,亜全摘,全摘を問わず,術後4〜6週間の時点で甲状腺刺激ホルモン(TSH)値が正常域内(0.25〜4mU/L)でなければHRTを開始,または用量を至適化する。目標値は0.8〜1mU/Lで,現在ではTSH抑制療法は時代遅れとされている。
補充用量は時間をかけて至適化し,用量を変更した場合は必ず,その約6週間後にTSH値を再測定する。再測定までの間隔が短すぎるとホルモンバランスが変化中であるため,あまり意味がない。7長期的には,年1回のTSH測定で十分である。
 
当初は十分な管理ができていたにもかかわらず,その後,TSH値が変化する場合,患者がレボチロキシンを朝食30分前の空腹時に服用しなくなったことが考えられるという。
炭酸カルシウムやHelicobacter pylori による胃炎もレボチロキシンの吸収を妨げる可能性がある。
さらに,出産可能年齢の女性は,妊娠とともにホルモン必要量が増加することを勘案すべきである。
 
ホルモン産生性腺腫やバセドウ病の患者では多くの場合,放射性ヨード療法後2〜3か月間は抗甲状腺療法が必要である。
その際,遊離トリヨードサイロニン(FT3),遊離チロキシン(FT4),血液像の検査を行うとともに,副作用リスクを考慮して肝機能もチェックしておく。
さらに,最初は3〜6か月間隔,その後は1年間隔でTSH値を測定し,超音波とシンチグラフィーによる甲状腺検査も実施する。
 
Führer教授は「放射性ヨード療法から数十年経過後も甲状腺機能低下症のリスクは残るため,患者は生涯にわたってTSH値の管理を継続する必要がある」と警告した。
例えば,TSH値4mU/L以上の場合,低用量レボチロキシン50μg/日を補充し,TSH値が0.8〜1mU/Lの目標値に達するまで時間をかけて用量を至適化していく必要がある。

再発性の場合は家族性も念頭に
ホルモン産生性腺腫の摘出や結節性甲状腺腫の縮小に成功した場合でも,常に甲状腺機能亢進症を考慮する必要がある。
TSH低値と同時にFT3ないしはFT4が上昇していれば甲状腺機能亢進症である。
Führer教授は,再発性の場合は,家族性の甲状腺機能亢進症も念頭に置くよう勧めている。その原因はTSH受容体の突然変異である。
 
再発予防には完全な甲状腺アブレーションを行い,さらに家族内でほかに突然変異を生じている者がいないかどうかを突き止めることが望ましい。

副甲状腺の機能低下か
甲状腺手術後,約3例に1例が一時的な低カルシウム(Ca)血症を発症する。
半年後もまだ補充が必要な場合は,永続的な副甲状腺機能低下症と考えられる。
臨床所見,血清Ca値と副甲状腺ホルモン値の低下に基づいて診断を行う。
 
Führer教授は,患者に症状があれば,毎日1〜2gのCa製剤と0.5〜1μgの1,25-OH-ビタミンD3製剤を投与するよう勧めている。
副甲状腺の軽度の機能低下では,場合によってはCa製剤とサイアザイド系利尿薬の併用で十分である。
Ca補充は,最初は週1回のコントロール下で行う。医原性の高Ca血症を来さないよう,永続的な副甲状腺機能低下症では3〜6か月間隔で血清中および尿中のCa濃度を測定する。
 
治療目標は,症状の消失と血清Caを正常低値で安定させることである。
腎結石を防ぐには,Ca排泄量を6mmol/24時間以下に抑えるべきである。

出典 Medical Tribune 2008.8.21
版権 メディカル・トリビューン社


by wellfrog2 | 2008-08-13 00:22 | 未分類


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