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井蛙内科開業医/診療録(2)

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2008年 09月 19日

慢性炎症とがんリスク

慢性の炎症でがんリスク増加
〔米オハイオ州クリーブランド〕マサチューセッツ工科大学(MIT)環境保健科学センター(CEHS,マサチューセッツ州ケンブリッジ)の研究員Lisiane Meira氏らは,2つの動物実験から,慢性の炎症はがんリスクを増加させることがわかったとJournal of Clinical Investigation(2008; 118: 2516-2525)に発表した。

DNA修復機構欠損でより促進
Meira氏らは,今回の研究により胃腸の慢性炎症がDNAを損傷し,特にDNA修復機構が欠損しているケースでがんリスクを増加させることが正式に証明されたため,ヒトへの適用が可能としている。
 
今回の研究では,DNA損傷に対する修復能が欠損したマウスで慢性炎症が腫瘍形成を促進させることがわかった。
この結果について,同氏らは「予想されていたが,正式には証明されていなかった」とし,「潰瘍性大腸炎などの炎症によりDNA損傷の修復能が低下したヒトでは,そうした慢性炎症によるがん発症への感受性がかなり高くなっている可能性がある」と付け加えている。
 
また,Helicobacter pylori 感染による炎症は胃がん発症リスクを上昇させ,C型肝炎は肝がんリスクを増加させることが知られている。
 
CEHSのLeona Samson所長は「今回の新たな知見から,医師はDNA修復能が低下した患者に対して注意を払う必要がある。それにより,炎症誘発性のがんを発症しやすい患者を見分けることができる」と述べている。
 
MIT研究グループの最初の研究では,ヒトの潰瘍性大腸炎と類似した炎症をマウスの大腸に誘発させると,DNA修復能欠損マウスはがんをより発症しやすいことを見出した。
 
次の研究では,H.pylori への曝露後のDNA修復能欠損マウスの胃に前がん病変がより生じやすいことが示された。
この研究に参加したMIT比較医学部門のJames Fox部長は,この研究の少し前に発表された別の研究(Cancer Research 2008; 68: 3540-3548)で,H.pylori感染を早期に抗菌薬で治療すれば,胃がんの発症を事実上予防できることを示している。

出典 Medical Tribune2008.9.4
版権 メディカル・トリビューン社



<番外編>
急速に広がるタミフル耐性、オランダでは死亡例も
~ 季節性インフルエンザのAソ連型で ~
季節性インフルエンザのAソ連型(H1N1)で、欧州中心に確認されていたオセルタミビル(タミフル)耐性ウイルスは、新たに南アフリカやガーナ、チリなどからも報告があり、ここにきて急速な広がりを見せている。
オランダからは死亡例も報告されており、専門家からは「耐性ウイルスの監視強化」を求める声が上がっている。

New England Journal of Medicineの9月4日号
 世界保健機関(WHO)の集計によると、2008年4月から8月20日までに、世界中で778分離株のうち242株に耐性ウイルスが認められた(参考文献1)。
耐性化率は31%に上った。
2007年10月から2008年3月31日までの集計では、7528分離株のうち1182株に耐性が見つかっていた。
耐性化率は16%で、4月からの5カ月あまりで倍増したことになる。

2008年4月から8月20日までの集計で注目すべきは、南アフリカとオーストラリア。
それぞれ107分離株、10分離株を検査した結果、すべての株から耐性が見つかっている(耐性化率は両国とも100%)。
このほかフランスやノルウェー、ロシアなどの欧州では17分離株中12株(71%)に、香港では583分離株中97株(17%)に、それぞれ耐性が確認されている。

日本では2月21日現在で、検査対象の100分離株中5株にタミフル耐性ウイルスが見つかっていた。
2007年10月から2008年3月31日までのWHO集計では、1652分離株中44株(3%)に確認されている。なお、2008年4月から8月20日までは報告はない。

一方で、New England Journal of Medicineの9月4日号に、気がかりな論文が発表された。
オランダのロッテルダムにあるエラスムス大学医療センターで、白血病のため3年も闘病していた67歳男性が死亡し、この症例からタミフル耐性ウイルスが見つかったというのだ。
検体からは、H274Y(タミフルが効かない変異)とL26FL(シンメトレルが効かない変異)が検出されている(参考文献2)。

タミフル耐性の広がりは、現在進められている新型インフルエンザ対策としての抗インフルエンザ薬の備蓄に影響を与えるのは必至だ。すでに欧州を中心に、タミフルに依存しすぎる現状を見直す動きが出ているが、今後さらに加速していくに違いない。


<参考文献>1)Influenza A(H1N1) virus resistance to oseltamivir
2)Fatal Oseltamivir-Resistant Influenza Virus Infection

NM online 2008. 9. 13
http://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/all/special/pandemic/topics/200809/507812.html
版権 日経BP社


<コメント>
世界一タミフルの処方頻度が高いといわれる日本での耐性ウイルスの発現頻度が少ないのは意外でした。
人種差ということでしょうか。
新型インフルエンザ対策として、ワクチンがどこまで効果があるか疑問に思っていましたが、タミフルにいたっては期待はさらに薄まりそうです。
<参考サイト>半永久的なインフルエンザワクチン
http://blogs.yahoo.co.jp/ewsnoopy/archive/2008/09/18

<自遊時間>
慢性炎症とがんリスク_f0174087_7365217.jpg

(画像をクリックすると大きくなります)
出典 日経新聞・夕刊 2008.9.18
版権 日経新聞社
’’’<コメント>’’’
最後の「その研究は一体どんな役に立つのですか。」のところ。
面白かったのでアップしました。

他にもブログがあります。
ふくろう医者の診察室 http://blogs.yahoo.co.jp/ewsnoopy
(一般の方または患者さん向き)
井蛙内科開業医/診療録http://wellfrog.exblog.jp/
(内科開業医関係の専門的な内容)
葦の髄から循環器の世界をのぞく http://blog.m3.com/reed/
(循環器科関係の専門的な内容)


by wellfrog2 | 2008-09-19 00:35 | 未分類


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