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井蛙内科開業医/診療録(2)

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2008年 09月 22日

2型糖尿病病態研究の最前線 その1(1/2)

特別企画
第51回日本糖尿病学会年次学術集会ランチョンセミナー
エキスパートが語る2型糖尿病病態研究の最前線(前編)

増加の一途をたどる糖尿病に対し,早期からの効果的な治療介入や病態の進展を食い止める治療戦略が求められるが,種々の病態研究のなかから有望な治療ターゲットが見出され,臨床応用に向けた検討が進められている。
先ごろ開催された第51回日本糖尿病学会年次学術集会ランチョンセミナーにおいて,アディポネクチンとその受容体をターゲットとした糖尿病治療戦略について東京大学大学院糖尿病・代謝内科/22世紀医療センター統合的分子代謝疾患科学講座の山内敏正氏が,膵β細胞をターゲットした治療戦略について順天堂大学内科学・代謝内分泌学准教授の綿田裕孝氏が,それぞれ自身の研究成果をもとに解説し,アディポネクチンやインスリン抵抗性,膵β細胞の観点での第3 世代スルホニル尿素(SU)薬グリメピリド(アマリールR)の有用性にも言及した。

座長:
東京医科大学内科学第三講座教授
小田原 雅人 氏 
演者:
東京大学大学院糖尿病・代謝内科/22世紀医療センター統合的分子代謝疾患科学講座
山内 敏正 氏 
綿田 裕孝 氏 順天堂大学内科学・代謝内分泌学准教授

2型糖尿病の分子メカニズムと治療戦略
アディポネクチンとその受容体に着目した診断法・治療法が有用
山内 敏正 氏 
肥満・内臓脂肪蓄積では肥大化した脂肪細胞からの悪玉アディポカインの異常分泌とともに,善玉アディポカインであるアディポネクチンの低下がインスリン抵抗性やメタボリックシンドローム,動脈硬化を引き起こすと考えられている。
2003年に世界に先駆けてアディポネクチン受容体(Adipo R)を同定した東京大学大学院糖尿病・代謝内科/22世紀医療センター統合的分子代謝疾患科学講座の山内敏正氏は,同氏らがアディポカインネットワークに着目して解明を進める2型糖尿病の分子メカニズムおよび治療戦略について紹介した。

高分子量アディポネクチン比がインスリン抵抗性,メタボリックシンドロームの指標に
アディポネクチンの血中レベルが低下すると,2型糖尿病・冠動脈疾患の発症リスクが上昇することが臨床データにより示されている。山内氏らは,肥満に伴いアディポネクチンのみならずAdipo Rも発現レベルが低下することをモデル動物での測定で明らかにした。
 
アディポネクチンは血中では多量体構造で存在しているが,同氏らは,ヒトにおいて高分子量(HMW)アディポネクチンの比率が低下する遺伝子変異を有する場合,インスリン抵抗性や糖尿病を発症することを見出した。
さらに,HMW比は総アディポネクチンに比べインスリン抵抗性およびメタボリックシンドロームの診断において感度,特異度とも有用な指標であることが分かった。
同氏は,HMW比の測定により高リスク者を早期に同定して生活習慣への介入を行うことで,糖尿病や心血管疾患の発症予防が可能ではないかと考察している。
 
一方,肥大化脂肪細胞からは悪玉アディポカインの1つであるMCP-1が分泌される。
同氏らによると,このMCP-1の脂肪組織からの発現は,アディポネクチンを欠損すると増加し,補充すると有意に低下した。
また,Adipo R1・R2欠損マウスにおいても有意な増加が見られた(図1)。
これは,Adipo R1・R2欠損により酸化ストレス消去に関わる分子の発現が低下し,酸化ストレスを増加させたためと示唆された。
2型糖尿病病態研究の最前線 その1(1/2)_f0174087_22532182.jpg

これらの所見から,脂肪組織の肥大化に伴いアディポネクチンが低下すると酸化ストレスなどを介してMCP-1発現が増加しマクロファージが浸潤し,肥大化脂肪細胞との相互作用により炎症が惹起され,アディポネクチンが十分作用できないために,インスリン抵抗性,メタボリックシンドローム,動脈硬化といった病態が起こる,と同氏はまとめた。

グリメピリドはアディポネクチンを増加,
悪玉アディポカインを低下
大血管症抑制のための糖尿病治療戦略として,より厳格な血糖コントロールがその予防につながることから,低血糖が起こらないことを確認しながらHbA1c値5.8%未満を目指すことが望まれる。
 
また,2型糖尿病患者は糖代謝異常だけでなく脂質代謝異常や高血圧を合併することも多く,心血管疾患など血管合併症発症抑制を目指してこれら3因子をいずれもコントロールしていくことが重要である。
 
さらに山内氏は,同じ血糖値でも高インスリン血症があると総死亡率上昇,心疾患発症のリスクとなると警鐘を鳴らす。
 
それらを踏まえた糖尿病治療において,SU薬のなかでもグリメピリドは血糖値を低下させ,インスリン抵抗性をも改善することから,長期予後において有用に働く可能性が高いと考えられる,と同氏は述べた。
このメカニズムとして,グリメピリドはアディポネクチンを増加し,また悪玉アディポカインであるTNF-αやPAI-1を低下させることが報告されているという(図2)。
2型糖尿病病態研究の最前線 その1(1/2)_f0174087_22542525.jpg
 
同氏は「アディポネクチンとその受容体は生体内で炎症・酸化ストレス,また糖・脂質代謝の制御に重要な役割を果たしており,これらをターゲットとした2型糖尿病の診断・治療が有用と考えている」と述べた。

出典 Medical Tribune 2008.9.11
版権 メディカル・トリビューン社


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by wellfrog2 | 2008-09-22 00:30 | 糖尿病


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