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井蛙内科開業医/診療録(2)

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2008年 11月 30日

リレンザ(ザナミビル)一考

イチョウの色づいた黄色い葉が奇麗な季節です。
歩道も黄色一色に染まっています。
天気のいい中、きょうは「医療機器フェア」に出かけました。

見て、触って、感動の2日間というキャッチフレーズです。
実はこんなフェア(卸さん主催)に行くのは初めてです。
ちょうど医学関連学会の医療機器展示ブースの開業医版で、調剤機器や受付・待合機器や電子カルテを主体にしたIT関連機器の展示が学会とは異なるところです。

正直いって結構楽しい時間をすごすことができました。

日頃お世話になっている社員、中には今年8月の超音波装置選定の際に落選(?)した医療機器メーカーの社員や、デモのため当院に最近来た経鼻電子内視鏡の営業担当に声をかけられたりしました。

きょうはグラクソ・スミスクライン(株)のリレンザの話を立ち話で聞いた内容の紹介です。
といってもパンフが主です。


リレンザは
●耐性が生じにくい
●気道に直接作用し、全身への影響が少ない
ということを第一にうたっています。

2006年2月 小児の適応追加
2007年1月 予防適応取得
使用期間が3年から5年に変更

精神神経系の副作用発現率は0.40%、消化器系は0.53%。


患者の自覚症状消失までの時間
12時間以内  24.0%
24時間以内  52.6%
48時間以内  79.6%


リレンザ(ザナミビル)一考_f0174087_21571189.jpg
リレンザ(ザナミビル)一考_f0174087_2158083.jpg


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# by wellfrog2 | 2008-11-30 16:17 | 感染症
2008年 11月 29日

新型インフルエンザのガイドライン改定案が提示

感染拡大時の対策を具体化
厚生労働省の新型インフルエンザ専門家会議(座長=国立感染症研究所感染症情報センター長・岡部信彦氏)は,11月20日,昨年(2007年)3月に策定された対策ガイドラインの改定案を示し,担当委員による説明をもとに議論を行った。
 
改定案が示されたのは,
(1)検疫,
(2)感染拡大防止,
(3)個人,家庭および地域における対策,
(4)埋火葬,
(5)積極的疫学調査実施要項(仮題),
(6)抗インフルエンザウイルス薬,
(7)医療体制,(8)サーベイランス,
(9)情報提供・共有(リスク・コミュニケーション)
-に関する9分野。
国内未発生の第一段階から感染が拡大した第三段階までの各段階における具体的対策が盛り込まれており,今後,政府の方針として正式に打ち出される。

発熱外来で患者を振り分け 軽症者は感染蔓延期には自宅療養に 
改定案のポイントは以下の通り。

感染拡大防止には公衆衛生学的対策が重要となることから,新型インフルエンザの患者が発生した地域においては,不特定多数の者が集まる活動の自粛や学校の臨時休業を実施する。
 
感染発生早期には,感染の疑いがある患者は保健所などに設置される「発熱相談センター」に電話で問い合わせをし,その指示に従って医療機関を受診する。
感染が確認された場合には入院治療を受けるが,感染蔓延期には,軽症者は原則として自宅療養となる。

新型インフルエンザの暴露を受けた者に対しては,第二段階には,同居者および患者と同じ学校や職場などに通う者に対し,抗インフルエンザウイルス薬の予防投与を実施し,第三段階には,増加する患者の治療を優先し,同居者以外への予防投与は見合わせる。
いずれの段階においても,患者に濃厚接触した医療従事者や水際対策関係者は予防投与の対象となる。
 
抗インフルエンザウイルス薬の選択では,オセルタミビルを第一選択薬とし,オセルタミビル耐性ウイルスにはザナミビルを使用する。

医療機関については,発生前の段階から,慢性疾患の患者に対して定期薬を長期処方する,発熱外来を準備するとしている。
入院措置中止後は,かかりつけ医が電話診療を行って感染が認められた場合,ファクスで処方せんを発行できる。

医療体制について,出席した委員からは,「学校などを閉鎖すると(育児中の)多くの医療スタッフが出勤できなくなるが,それについての対策は議論されているのか」という質問があり,担当委員は「今回の改定では取りまとめに至らなかったが,医療機関における事業継続計画については,重要な検討問題と考えている」と述べた。
 
また,発熱外来の具体的な実施方法や有効性を問う意見に対して,「発熱外来については議論が白熱しているところであるが,発熱している患者とそうでない一般患者を分ける努力は必要である」と答えた。

感染拡大期の検査体制に関して具体化されていないといった指摘があり,座長の岡部氏は「すべての患者に病原検査をすることが実際的であるかどうかという問題はある。診断キットの開発などを進める一方で,具体的に議論しなくてはならない部分である」と述べた。

http://mtpro.medical-tribune.co.jp/mtpronews/0811/081129.html
NM online

出典 日経メディカル オンライン 2008.11.25
版権 メディカル・トリビューン社


新型インフルエンザのガイドライン改定案が提示_f0174087_111612.jpg



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# by wellfrog2 | 2008-11-29 00:25 | 感染症
2008年 11月 28日

女性のアルツハイマー病とTSH値

女性のアルツハイマー病に甲状腺刺激ホルモン値が関与
ベス・イスラエル・ディーコネス医療センターおよびハーバード大学(ともにボストン)のZaldy S.Tan博士らは,甲状腺機能や甲状腺ホルモン値に影響を及ぼす甲状腺刺激ホルモン(TSH)が低値または高値の女性はアルツハイマー病(AD)発症リスクが増大する可能性があるとArchives of Internal Medicine(2008; 168: 1514-1520)に発表した。

発症リスクが2倍に
臨床的に検出可能な甲状腺機能の亢進と低下が,治療可能な認知障害(思考,学習,記憶)の原因となることは周知の事実である。
これまでにも,複数の研究で甲状腺から分泌され,甲状腺機能調節の役割を担うTSH値が,甲状腺機能が正常な人の認知能力に関係があるか否かについて検討されてきたが,その結論は一貫性を欠いていた。 
そこでTan博士らは,1977~79年に認知機能に問題のない1,864例(平均年齢71歳)のTSH値を測定した。
地域ベースのフラミンガム研究の一環として参加した対象者は,登録時とその後2年ごとに認知症の評価を受けた。
 
その結果,平均12.7年間の追跡調査で209例がADを発症し,このうち142例は女性であった。
同博士らは,そのほかの関連因子を調整後,TSH値が最も低い(<1mIU/L)女性群と最も高い(>2.1mIU/L)女性群では,AD発症リスクが2倍以上高いことを明らかにした。
一方,男性ではTSH値とAD発症リスクとの関連性は認められなかった。 

同博士らは「TSH値がAD発症前後のいずれの時点で変動するのかはわかっておらず,その神経病理学的機序も解明されてはいない」としながらも,「原因としては,ADに起因する脳内の変化がTSH放出量を減少させているか,TSHに対する身体の反応性に影響している可能性が考えられる」と述べている。
 
また,TSH値が高くても低くても神経や血管を損傷し,それが認知的困難につながっている可能性もあるとしている。 

同博士らは,結論として「女性ではTSH高値または低値によりAD発症リスクが増大するが,男性では関連は認められない。これらの知見は新しい仮説で,臨床的な結論を出す前に他の母集団でもその正当性を立証すべきである」と述べている。
出典 Medical Tribune 2008.10.9
版権 メディカル・トリビューン社

<コメント>
T3,T4ではなくTSHが単独のアルツハイマー病発症の危険因子であるということが興味深いところです。
女性患者は一度は甲状腺ホルモンをチェックしなければと思いながらも、なかなか出来ません。
潜在性の甲状腺異常患者は結構いると思うのですが。
少なくともコレステロール値異常の方、特に女性では必要な検査と思われます。
TSHの解釈も奥が深くなってきました。


認知機能障害は糖尿病の罹病期間と重症度に相関
メイヨー・クリニック(ミネソタ州ロチェスター)のRosebud O. Roberts氏らが,軽度認知機能障害を有する人は,早期から糖尿病を発症し,罹病期間も長く,より重度であるとArchives of Neurology(2008; 65: 1066-1073)に発表した。

65歳未満の糖尿病発症と相関
今回の論文の背景情報によると,軽度認知機能障害は正常な老化から認知症への移行段階である。
過去の研究によって,軽度認知機能障害と糖尿病との相関性は既に明らかにされている。
長期にわたる血糖管理の不良はニューロンの喪失につながる可能性がある。
また,糖尿病は認知機能障害リスクの上昇につながる心血管疾患と脳卒中との関連性も指摘されている。
 
Roberts氏らは,ミネソタ州オルムステッド郡の住民(2004年10月1日時点で70~89歳)を対象に研究を行った。参加者に対して神経学的診察,神経心理学的評価,血糖値測定,糖尿病歴と治療および合併症に関する面接調査を実施。糖尿病歴については,医療記録リンケージシステムを用いて確認作業を行った。
 
その結果,軽度認知機能障害を有している329例と同障害を有していない1,640例の糖尿病有病率は同等であった(それぞれ20.1%,17.7%)。しかし,軽度認知機能障害は,65歳未満の糖尿病発症,10年以上の罹病期間,インスリン治療を受けていること,糖尿病性合併症を有していることなどと相関性が認められた。
 
同氏らは「重度糖尿病は,長期の高血糖と相関する可能性が高く,それがひいては脳における微小血管疾患の発症率を高め,ニューロンの障害,脳萎縮や認知機能障害の一因となっている可能性がある」と述べている。
 
糖尿病性網膜症に罹患している人では軽度認知機能障害を有する率が2倍高いという事実は,糖尿病による脳血管障害が認知機能障害発症の一因だとする理論を支持している。
 
同氏らは「今回の知見は,罹病期間および治療法と合併症の有無で判定した糖尿病重症度が,糖尿病患者の認知機能障害発症に重要である可能性を示している。対照的に,糖尿病が晩期発症型で罹病期間が短く,管理良好な患者では,認知機能障害発症はあまり影響しないであろう」と結論している。

出典 Medical Tribune 2008.10.9
版権 メディカル・トリビューン社


便秘薬長期服用で2人死亡 厚労省、注意呼び掛け
05年4月からの約3年間に、便秘薬などとして医師が処方した酸化マグネシウムを服用した15人が副作用の高マグネシウム血症になり、うち服用が長期間だったとみられる2人が死亡したと報告されていたことが27日、明らかになった。
酸化マグネシウムは副作用リスクが低いとみられていたが、厚生労働省は「一般用医薬品(大衆薬)は含有量は少ないが、長く服用すると同じなので気を付けてほしい」としている。
http://www.excite.co.jp/News/society/20081127/Kyodo_OT_CO2008112701000968.htmlexcite.ニュース 2008.11.27


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<医師と裁判員制>定例記者会見
「裁判員制度の施行にあたって、最高裁判所長官、法務大臣らに申し入れ」
―羽生田俊常任理事
http://www.med.or.jp/shirokuma/no1038.html
羽生田常任理事は、裁判員制度では、医療関係者も例外ではなく、原則として、指名されればこれに応じる必要があるため、医療提供に問題等が生ずる恐れがある場合も考えられることから、これを理由に辞退しなければならないケースが多数予想されることに言及。そのうえで、「地域住民の生命、安心・安全を担う医師・医療従事者の使命に鑑み、個別具体的な辞退申し出事由について、十分な理解を得るために、最高裁判所長官、法務大臣などに対して、文書で申し入れを行った」とその経緯を述べた。

 また、同常任理事は、医師・医療従事者が患者の診療上やむを得ず辞退を申し出る場合の取り扱いについて、(1)前年の12月頃、裁判員候補者名簿登載者に送付される「調査票」、(2)具体的な事件の裁判員候補者に裁判の約6週間前に送付される「質問票」、(3)裁判の当日に行われる選任手続き―等の局面において、辞退を申し出ることができるとし、裁判員候補者として指名された者が、当該事件を担当する裁判所に対して個別に辞退理由を説明し、裁判官によって辞退の可否が決定されることを改めて説明した。

問い合わせ先:日本医師会医事法制課 TEL:03-3946-2121(代)

<裁判員制度>明確でない辞退事由 「義務」と「仕事」板挟み
http://tottokotottoko.blog55.fc2.com/blog-entry-2901.html

医者が裁判員にならなくてすむ方法
http://ruhiginoue.exblog.jp/9587004/

司法に文句をいう千載一遇のチャンス到来:裁判員制度
http://intmed.exblog.jp/6664334/

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# by wellfrog2 | 2008-11-28 00:14 | 認知症
2008年 11月 27日

日本人2型糖尿病患者の治療

周知のように、肥満の割合が高い欧米と比べ,肥満の割合が低い日本の2型糖尿病患者では,インスリン分泌の低下が病態の主体となっています。
きょうは、このような病態に則した日本人特有の糖尿病治療についての座談会で勉強しました。
 

座談会
肥満の少ない日本人2型糖尿病患者に対する治療のあり方


司会:
東北大学大学院分子代謝病態学分野教授
岡 芳知 氏 

コメンテーター:
東京医科大学内科学第三講座主任教授
小田原 雅人 氏 
出席:
東北大学大学院再生治療開発分野教授
片桐 秀樹 氏 
奥口内科クリニック院長
奥口 文宣 氏
山田憲一内科医院院長 
山田 憲一 氏
東北労災病院糖尿病代謝内科副院長
  赤井 裕輝 氏 


非肥満例が多い日本人糖尿病患者 専門医の第一選択薬はSU薬
岡 
本日は,日本人の2型糖尿病治療について,病態に即した治療方法や適切な薬剤選択のあり方を中心に討議してまいりたいと思います。
 
まず,小田原先生,血糖コントロールの重要性についてどのようにお考えでしょうか。

小田原 
1型糖尿病患者を対象としたDCCTにより,血糖値を良好にコントロールするほど,網膜症,腎症といった細小血管症の発症が抑制されることが示されました(図1)。
血糖値の正常化は,人種差を越えて細小血管症の発症抑制につながることが疫学的にも明らかになっています。
日本人2型糖尿病患者の治療_f0174087_20574653.jpg

岡 
続いて,日本人の2型糖尿病患者の病態についてお伺いします。
日本では欧米ほど2型糖尿病患者の肥満の割合は高くありません。
日本と欧米における2型糖尿病患者の肥満度の違いについてご説明くださいますか。

小田原 
米国人糖尿病患者のBMIは平均32程度であるのに対し,日本人糖尿病患者のBMIは平均23.5程度です(図2)。
つまり,欧米では2型糖尿病患者のほとんどが肥満といっても過言ではありません。
日本人2型糖尿病患者の治療_f0174087_2059892.jpg
 
そうしたことから2006年に発表された米国糖尿病学会(ADA)と欧州糖尿病学会(EASD)の統一見解では,2型糖尿病と診断された患者には,生活習慣の改善とともにメトホルミンの投与が推奨されています。
欧州,米国では2型糖尿病患者に肥満傾向があることを前提にしているためです。
日本では非肥満例が2型糖尿病患者の3分の2を占めるのが現状であり,これをそのまま当てはめることは難しいと思います。

岡 
それでは,日本では2型糖尿病治療においてどのような薬剤選択が行われているのでしょうか。

小田原 
非肥満例が多い日本人の2型糖尿病患者には,スルホニル尿素(SU)薬をはじめとするインスリンの分泌を促進する薬剤の血糖低下効果が高いです。
 
2006年に行われたアンケート調査(日経メディカルオンライン,2007)において,糖尿病専門医が2型糖尿病の第一選択薬として最も多く回答したのは,非肥満例でSU薬,肥満例でビグアナイド薬でした。

肥満はSU薬の効果発現に大きく影響
岡 
海外のデータですが,SU薬の投与により,血糖値がひとまず低下するものの,次第に上昇に転じて投与開始1年後には投与前値に戻ってしまうという報告がありました。

山田 
日本における非肥満糖尿病の例では,体重増加がない場合,少量のSU薬で長期間にわたってコントロールが維持されることも少なくありません。
欧米では通常,診療は3?4か月に一度です。
きめ細かな患者への指導を行いにくいという状況なので,このこともSU薬の効果に対して影響しているかもしれません。

岡 
欧米人は日本人の2型糖尿病患者より対象の肥満度が高いだけではなく,生活習慣の改善が不十分であることも影響している可能性が大きいですね。

片桐 
米国白人の場合,基本的に膵β細胞が肥大化し,かろうじて血糖値を正常に維持している状況で肥満度が高まり続けるので,糖尿病を発症した時点でインスリンを分泌する予備力をかなり失っている例が多くあると考えられます。
そうしたことから欧米の2型糖尿病患者にSU薬を投与すると,一時的には効果を示しますが,いずれ膵β細胞が機能不全に陥ってしまうと考えています。

岡 
欧米人のインスリン分泌能は日本人の3倍近いですからね。

赤井 
肥満を呈していない日本人糖尿病患者でも,過去に肥満があり,極度の血糖コントロール不良を呈する間に次第に痩せていってしまうことがよくあります。

岡 
肥満自体が,膵β細胞に負担をかけているようにも思えます。
確かに肥満歴は血糖コントロールに影響を及ぼしますね。

山田 
非肥満例であれば,SU薬の少量投与によって比較的長期間,安定的に血糖をコントロールできると思います。

小田原 
清野裕らのデータによると,日本人の場合,空腹時血糖値が100mg/dL程度まで上昇すると,インスリン分泌量が増加しますが,空腹時血糖値がそれ以上になると,インスリン分泌量も低下します。
ところが米国白人の場合,空腹時血糖値が100mg/dLを超えた程度では,インスリン分泌量は低下しません。

インスリン抵抗性に対するSU薬の影響
小田原 
日本人に多く見られる比較的軽度の血糖上昇でインスリン分泌が低下する例では, SU薬が有効な場合が多いと考えられます。
また, SU薬が膵β細胞を疲弊させるという説はUKPDSの結果では否定的でした。
 
第3世代のSU薬のグリメピリド(アマリールR)では,新規症例に対する6か月投与でHbA1C値を平均7.6%から6.5%にまで低下させました(図3)。
しかも,最終評価時の投与量は平均1mg/日と低用量でした。
日本人2型糖尿病患者の治療_f0174087_20594734.jpg

片桐 
白人では,SU薬が効果を示さないわけではありません。
ただ,血糖改善効果が長期に持続しないのは,糖尿病を発症する時期まで膵β細胞に非常に大きな負担がかかっており,発症後にさらに負担が増すからと考えます。

小田原 
SU薬の日本人に対する血糖低下作用は長期にわたって持続するという報告が多いようです。
また,グリメピリドがアディポネクチンを上昇させることも報告されています。

奥口 
グリメピリドがインスリン抵抗性を改善するという文献もありますね。

赤井 
グリメピリドは,ある程度抗酸化作用も有すると言われていますがどうなのでしょうか。

小田原 
グリメピリドにインスリン抵抗性改善作用があることは間違いありませんが,そのメカニズムには諸説あり,何が主な作用か明らかではありません。
ただ,アディポネクチンの分泌を促進し,それ以外の悪玉アディポカインの分泌を抑制することもインスリン抵抗性改善の機序の1つと思われます。

糖尿病性腎症をいかに抑制するか
岡 
奥口先生はグリメピリド投与例を対象に糖尿病性腎症を検討したデータをお持ちとのことですが,ご紹介いただけますか。

奥口 
糖尿病データマネジメント研究会(JDDM)に参加している施設のデータを元に,後ろ向き研究で2,251例の2型糖尿病患者におけるグリメピリド投与前後のHbA1C値と尿中微量アルブミン量(U-ALB)の増減について検討しました。
 
これによると,HbA1C値は投与開始3か月後に低下し,それが12か月後まで持続しました。
また,U-ALBの低下も見られました。
なお,12か月後に収縮期・拡張期の血圧も低下が観察されました。

岡 
血圧を低下させたメカニズムについては,どのようにお考えですか。

奥口 
グリメピリドの投与により血糖値が低下し,インスリン抵抗性が改善することが,血圧を低下させている可能性があると考えます。

体重増加を来しにくいグリメピリド
岡 
SU薬は原則的に体重増加を来しやすく注意が必要ですが,グリメピリドに関してはどのような印象をお持ちですか。

小田原 
グリメピリドとグリベンクラミド(ダオニールR)を比較したところ,BMIの低下度がグリメピリド投与群で大きかったと報告されています(Martin S, et al: Diabetologia 46: 1611-1617, 2003)。
グリメピリドは低血糖の発現頻度が低いので,それも体重増加の抑制に関係していると思います。

岡 
SU薬による脳のATP感受性カリウム(KATP)チャネルへの刺激が,食欲の増減に関与している可能性があるのではないかと思うのですが,片桐先生はどうお考えですか。

片桐 
経口血糖降下薬は,血糖値を低下させることにより,体重の増加に影響を及ぼすと思います。
なおかつインスリン分泌が促進されれば,体重が増加しても不思議ではありません。
さらにSU薬は,脳のKATPチャネルに働きかけ,食欲を増やすことも報告されています(Spanswick D, et al: Nature 390: 521-525, 1997)。

岡 
グリメピリド投与により患者の体重が増加し,対処に苦慮した経験はありますか。

赤井 
多少体重が増加しても血糖値の正常化を優先し,その後で体重対策を行うという方針で治療していますが,グリメピリド投与により体重が増加した例は経験していません。

奥口 
先程のJDDM研究の際にBMIも検討しています。
6,967例にグリメピリドを投与した際に,開始時と12か月後で変化は認められませんでした。

山田 
理想的な経口血糖降下薬の条件としては,十分な血糖改善効果を有する一方,低血糖を起こしにくく,体重増加を来さず,膵β細胞に対し保護的な作用があることなどがあります。
これらを踏まえ,欧米ほど肥満の割合が高くない日本の2型糖尿病患者の病態を考慮すると,どのような薬剤選択をすべきなのでしょうか。

小田原 
日本人の2型糖尿病患者において,HbA1C値を十分低下させ血糖コントロールを維持するためには,多くの場合SU薬は欠かせない薬だと思います。
科学的根拠に基づく糖尿病診療ガイドラインにも,細小血管症の抑制についてエビデンスがあるのはSU薬とメトホルミンだけであると記載されており,世界的に評価の確立した薬剤と言えるでしょう()。
日本人2型糖尿病患者の治療_f0174087_2104813.jpg

岡 肥満の割合が少ない日本人の2型糖尿病患者には,SU薬をベースにした治療が適しているということですね。

出典 MT pro  2008.11.20
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# by wellfrog2 | 2008-11-27 00:26 | 糖尿病
2008年 11月 26日

第2世代抗うつ薬適正使用のガイドライン

米国内科学会が第2世代抗うつ薬の適正使用に関するガイドラインを作成
11月18日付の米国内科学会(ACP)誌(Ann Intern Med 2008; 149: 725-733)で第2世代抗うつ薬の適正使用に関するガイドラインが発表された。

薬剤間で効果に差はなし
一般臨床医を対象にした同ガイドラインでは,大うつ病障害患者に対する急性期,継続期,維持期のエビデンスに基づいた薬物治療の管理指針が示されている。

推奨内容はMEDLINE,EMBASEなど各種データベースから検索されたパロキセチン,セルトラリン,フルボキサミン,トラゾドンなど12の第2世代抗うつ薬に関する203の臨床試験に関する英語論文を元に策定された。

第2世代抗うつ薬のみを対象とした理由について,同学会は三環系抗うつ薬,モノアミン酸化酵素(MAO-B)阻害薬などの第1世代の薬剤は,同等の効果で過剰投与による毒性発現の頻度が少ない第2世代の薬剤に比べ使用頻度が低いからとしている。
さらに,同ガイドラインでは,選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI),セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬(SNRI)や他の薬剤のタイプによる効果の差は見られないだろうとの見解が示されている。

作成委員会のAmir Qaseem氏らは,気分変調症や亜症候性うつ病を有する患者群での第2世代抗うつ薬の効果や超高齢者,合併症を有する患者群に対する治療効果のほか,抗うつ薬の併用療法や第一選択薬無効例に対する薬剤選択のエビデンスなども今後必要と述べている。

抗うつ薬は疾患そのもの,あるいは他の疾患との関連といった病態への認識が浸透するにつれ,各国で広く用いられるようになっている。
精神疾患を有さない人口においても,抗うつ薬の服用が一般化しているとの報告(http://mtpro.medical-tribune.co.jp/article/view?phrase=%E6%8A%97%E3%81%86%E3%81%A4%E8%96%AC&perpage=0&order=1&page=0&id=M41460411&year=2008&type=article)もある。
それだけに,一般臨床に携わる医師にも抗うつ薬に関する正確な知識と処方が求められると言えるだろう。
ガイドラインにおける推奨内容は表の通り。
第2世代抗うつ薬適正使用のガイドライン_f0174087_1545975.jpg


ガイドライン,ここがポイント?効果に差はないが,副作用に関する説明が必要
すでにヨーロッパでは一般医による処方が普通に行われているそうだが,日本ではごく一部の関心の高い一般医が処方しているに過ぎないという抗うつ薬。
しかし,うつ病に対する社会的認知度の高まりとともに,患者数は明らかに増えており,専門医だけでなく一般医家が診療に携わる機会は今後ますます多くなると見られる。東北大学病院精神科講師の松本和紀氏に,同ガイドラインで押さえるべきポイントと日本の診療現場が抱える問題点を解説してもらった。

特に自殺企図に関する十分な認識が不可欠
今回のガイドラインの一番よい点は,エビデンスに基づく推奨内容が示されたことで,推奨内容そのものには格段の目新しさはない。
ポイントは「薬剤間の効果の差はないので,副作用の違いを患者にきちんと説明し,患者の意見を取り入れながら処方する」というところではないか。
 
注意すべき点は,SSRIで少なくとも非致死性の自殺企図が増えるという結果が取り上げられていること。
自殺の問題を扱うことに不安を感じる一般医は多いと思うが,これはうつ病診療には欠かせないポイントで,この問題を避けて薬剤を処方するのは危険だということを十分認識する必要がある。
また,SSRIでの不安,焦燥の増大,性機能低下などもきちんとモニターすることが重要だ。
 
また,今回のガイドラインを参照する際,期待通りの効果が出るのは半分くらいに過ぎないということも押さえておくべき。
そうでないと,効く人は病院から離れていくので,うつ病をよく診る医師ほど,残った効かない人を沢山目の当たりにし,「SSRIは効かない」という印象を持ってしまう可能性がある。

安易な診断・処方に危機感,治療難渋例に対する診療体制の不足も
疾患に対する認識が広まる一方で,安易な診断,処方を行われているケースも確実に増えている。
古典的なうつ病に馴染んだ専門医にとっては,昨今の非古典的なうつ病に対する批判もあるが,現実にこれだけ非古典的うつ病が増え,市民権を得るに至っては対処を考えざるを得ない。
 
また,薬剤無効例には心理療法などが必要な場合も多い。
しかし日本では診療報酬化されておらず,効果的な心理療法を受ける機会を得るのがかなり難しいことも問題だ。
専門医の立場からは治療難渋例についてもきちんと診療報酬を取れて,5分診療ではない,時間をかけた専門的治療が出来る環境を担保すべきと考える。

http://mtpro.medical-tribune.co.jp/mtpronews/0811/081123.html
出典 MT pro  2008.11.20
版権 メディカル・トリビューン社


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# by wellfrog2 | 2008-11-26 00:03 | 未分類